第八章 お兄ちゃんと初日の出
1月1日午前2時頃。
内宮を後にし、咲人さんの案内で一軒のうどん屋さんにやってきました。
そう、オイラたちはまだ年越しそばを食べていなかったのです。
ついでなので、「伊勢うどん」なる物体も食べてみようという話。
満を持して我々の前に登場した伊勢うどん。
小皿にとりわけ全員に配給された後、全員がそれを口に運びました。
咲人さん曰く「伊勢の人間にとってうどんとはこれが当たり前のもの」というその伊勢うどん。
うどんとはつるっとした食感とコシのある歯ざわりが常識である、と考えている異邦人には衝撃の柔らかさ。
そしてその熟なまでに茹で上げられた太めのうどんに絡み付く甘辛い醤油ダレ。
そう、「つゆ」ではございません。これはもう「タレ」です。
うどんをイメージしながら食べた人間はこう思うことでしょう。
「なんじゃこりゃあ」と。
みんな松田優作になってしまうのです。あな恐ろしや。
しかし。
しかしです。
モノは考えようと申します。
いや、それは表現が悪い。
松田優作な皆さんは、「うどん」という名前の先入観に騙されているだけなのです。
そう。
「うどん」というものに固定観念を抱いているため、つい松田優作になってしまうのです。
その枷を外そうではありませんか。
よく味わっていただきたい。決して不味いわけではないのです。否、むしろ美味。
オイラはこう思いました。
「あ。磯辺焼」
そうなのです。おもちですこれは。
もちもちとした食感。甘辛い醤油ダレ。
まさしくおもちそのものではございませんか。
だとしたら何を松田優作する必要があろう。
皆、伊勢うどんを称えるがよろしい。これは美味であると。
伊勢うどんは、「うどん」という固定観念に一石を投げかける現代の芸術なのです。
さぁ!皆さんも今すぐ伊勢うどん!
地球を代表する偉大なる食物として世界に知らしめようではありませんか!
伊勢うどん万歳!伊勢うどんマンセー!ハイル伊勢うどん!
※そろそろ引っ込み付かなくなってきたんで誰か止めてください。
さて、年越しそばと伊勢うどんでようやく人心地ついた一同は、そのままうどん屋に居座りトークモードに入りました。3時間ほど。
会話の内容は割愛します(いろいろな意味で)。
途中で麗士さんが気を失いかける眠気に襲われたのが会話の内容を象徴していると言って良いかもしれません。
夜明けが近づいた頃、一行はうどん屋を後にして五十鈴川駅へ。
そこから鳥羽駅へ移動し、日の出を待つことに。
とはいえ1月の早朝はまだ寒い寒い。
実際の日の出は6時45分と聞いていたので、ギリギリまで鳥羽駅の待合室で粘ることに。
麗士さんが取り出したポップコーンを「リバース」や「ワイルドドローフォー」が飛び出すウノ形式で回し食いしながら談笑を続ける一同。
途中麗士さんが取り出したチャイナ服をめぐりひと騒動が起きました。
なぜそんなものを持っているのかは「麗士さんはそういう人なんだな」ということで納得しておくとして、矛先が何故かゆつきさんに。
あ、ごめん、訂正。
ゆつきさんに矛先が向くのは必然でした。だって可愛いし(男だけど)。
というわけで、急遽ゆつきさんの擬似チャイナコスプレ撮影会を開催。(新年の早朝から駅の待合室で)
本人は羽交い締めされていますが。ゆつきさん、弄られキャラ確定?
6時も過ぎ、そろそろ移動しようということで駅を出ます。さらば待合室。
海辺の堤防に出た一行。
寒風吹きすさぶ中、初日の出のご来光を待ちます。
咲人さん「昔はこの堤防の上に正座して、太陽に向かって「アラーの神よ!」ってお辞儀したもんですけどね」
やりませんので。
ひたすら日の出を待つ一同。
堤防の上に立つ咲人さんを虎視眈々海へ落とそうと狙っていると、いよいよ日の出予定時刻になりました。
雲です。
嗚呼、なんということか。寄りによって地平線近くにあんなに雲が。
このままご来光を拝めずに終わってしまうのでしょうか。
まだあきらめません。
もう既に太陽は地平より上に上っているはず。
その証拠に、雲の切れ目からうっすらと…
来ました!来ましたよ!
ご来光です。初日の出のご来光です!
出たー!(イオンコートCMっぽく)
おお、なんと神々しい光なのでしょう。
海原に伸びる光の道。
それはあたかもこれからの我々の未来を指し示すようであります。
雲の切れ間から顔を覗かせたそのお姿はまさしく伊勢神宮の天照大神(あまてらすおおみかみ)そのもの。
日の出予定時刻からは数刻遅れての登場ですが、我々は、ついに、神に出逢ったのです。
2003年。
改めて、明けましておめでとうございます。
そろそろ寒さに耐えるのも限界です。