ショートコント:浦島太郎
(2005/08/18作)


「大丈夫だったかい、亀さん」
「ありがとうございます! 助かりました」
「うん、無事でよかった」
「あなたのお名前を教えてください」
「私は浦島太郎。この浜に住む漁師さ」
「浦島太郎さん、是非お礼がしたいのですが」
「いやいやそんなお構いなく」
「いえ、是非私たちのお城、竜宮城にご招待させてください」
「竜宮城?」
「はい。絵にも描けない美しさと言う根も葉もない噂で有名なお城です」
「根も葉もないのかよ」
「築200年は下りませんしね」
「ものすっごい古家じゃん」
「まぁなんだかんだ言っても海の中ですからそうそう壊れませんよ。腐ってても」
「腐ってるんだ」
「大丈夫大丈夫。ちゃんとアスベストで補強してますから」
「別の意味で大丈夫じゃないよねそれ」
「竜宮には乙姫様がいらっしゃいますよ」
「乙姫様?」
「はい。それはそれはたいそう美しいと専らの評判」
「ほう」
「当店のNo.1でございます」
「店!?」
「あ、いや失礼。つい仕事の癖が」
「君、そういう仕事やってる人なの?」
「いえ、亀です」
「訂正するのはそこなのね」
「ご馳走も用意させていただきますよ」
「おっ、ご馳走?」
「はい。それはもうこの世のものとは思えない味です」
「なんか物凄く不味そうに聞こえるんだけど」
「あまりの美味しさに、毎日失神者が出ます」
「それ、別の原因じゃなくて?」
「鯛や平目が舞い踊って歓迎いたします。セクシーですよ」
「魚のセクシーさは多分理解できないと思う」
「お気に召しませんでしたら彼女らも料理のほうに回させて頂きますので」
「そんなの聞いたら食べれないよ!」
「我々一同、骨身を削っておもてなしする所存です」
「それ慣用句の使い方間違えてるから」
「お帰りの際にはお土産も差し上げますよ」
「お土産?」
「はい。開けると老人になってしまう不思議な不思議な玉手箱」
「要らないよ、そんな厄介なもの」
「えー。でも玉手箱以外っていうと、開けたら災厄が飛び出すパンドラの箱しかありませんよ?」
「なんでそんな物騒なものばっかりあるんだ」
「いや、他にも宝物はあったんですけど…」
「なんかあったの?」
「実はついこの間、ナントカ言う名前の猿の妖怪が強奪していったんです」
「さ、猿…?」
「さぁ、行きましょう。私の背中に乗ってください」
「嫌だよ! どう考えても嫌なことばっかりじゃん」
「いえいえいえ、それはきっと私の説明が悪かっただけですよ」
「絶対違うと思うなー」
「来て頂ければ必ず楽しんでいただけるはずですって」
「そうかなぁ」
「住めば都って言うじゃないですか」
「絶対行かない」
「あれ。あばたもえくぼ?」
「ますます行きたくないよ」
「ほんと、絶対楽しいですから。私が保証します」
「すっごい胡散臭いんだが」
「時間を忘れますよ。帰るころには300年経ってますから」
「それ、既に時間忘れるとかいうレベルじゃないよね」
「お願いしますよ。私も何もお礼をしないまま帰れません」
「お礼なんかいいよもう。というかお礼になってないし」
「心からおもてなししたいのです。これは本心ですよ」
「うーん…」
「お城は確かに古いですが、美しい事は確かです」
「はぁ」
「ご馳走は本当に美味しい料理ばかりですから」
「そ、そう?」
「鯛や平目の舞い踊りは一見の価値ありですよ」
「う、うーむ…」
「ここで行かないのは人生の損失だと思いますよ。是非是非」
「…よし。わかった、行くよ」
「ありがとうございます! それでこそ浦島太郎さん! 主人公!」
「よくわからない誉め方だな」
「いよっ、社長!」
「違うから」
「さぁ、では出発いたしますよー」
「うん、行ってくれ」
「いざ、夢と希望しかない竜宮城へ!」
「おーっ…しかない!?」
「はーい。じゃあ海底まで二、三時間ほどかかりますから息止めといてくださいねー」
「死ぬわー!!」