ショートコント:チュートリアル
(2007/05/05作)
「暇だなぁ」
「あぁ、暇だ」
「なんか面白い話ない?」
「面白い話?」
「うん」
「えー、『桃太郎』。昔々あるところに…」
「おお! うん、うん」
「…いや、単純にボケたつもりだったんだけど。ツッコんで欲しかった」
「えぇー。面白そうだったのに。続けてくれよ」
「食いつくのか。桃太郎に食いつくのかお前は」
「頼む。一生のお願い。このままだと続きが気になって今日寝られなくなる」
「そんな大げさな。…まぁ、わかった。続き行けばいいんだな?」
「よっしゃー! 待ってました!」
「そんなに楽しみにされてもなぁ…えー、昔々あるところに」
「ちょっと待って」
「何」
「いつのどこかはっきりしてくれない? イメージがわかないから」
「いや、詳しくは俺も知らんし」
「ざっくりでいいから。ざっくりで」
「ざっくり言われても」
「じゃあ俺が勝手に判断していいのか? ジュラ紀の火星って設定にするぞ?」
「ごめんごめんごめん。少なくとも場所は日本です。時代は、うーん、鎌倉時代くらいかな?」
「おお、なるほど。鎌倉時代の日本ね。OK、OK。どうぞ続けてください」
「…はい。えーと、昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」
「そのおじいさんとおばあさんの名前は?」
「知らんわ!」
「あ、特に設定されてないんだね。バカボンのパパ・ママみたいな感じで」
「あー、そうそう。もうそれでいいよ」
「わかった。すみません、続けてください」
「えーと。ある日おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」
「すれ違う二人は別々の道を歩んでいくんだね…」
「いや、そんな人生の岐路みたいなのじゃないから」
「それが、最後に見たおじいさんの姿だった…」
「縁起でもない。勝手に死亡フラグ立てるな」
「で、で、で。二人はどうなるの。どうなるのったらどうなるの!」
「だから食いつくなって。まだ桃太郎すら登場してないよ」
「えぇぇー!? マジで!? ちょ、早く進めって。気になるって」
「お前が止めてるんじゃないか。…えー、おばあさんが川で洗濯していると」
「うん。うんうん」
「川上から大きな桃がどんぶらこーどんぶらこー」
「うっわ、桃が喋った!」
「違うわ! 擬音だ、擬音。流れてくる擬音」
「あ、ああ、なんだ。そうか。ああ、びっくりした。びっくりさせるなよお前」
「お前が勝手にびっくりしてるんじゃないか」
「で、で? どうなったの?」
「あー、おばあさんはその桃を拾って、家に持って帰りました」
「すっげー! おばあさん、めちゃくちゃ力持ちだな! 元気だ!」
「ああ、まぁな」
「で、その頃おじいさんは?」
「え?」
「山へ柴刈りに行ったおじいさんはどうしてたの?」
「えー…まぁ順調に柴を刈って帰った、かな」
「すっげー! おじいさん仕事できるぅー!」
「あ、ああ。そうだな」
「で? で?」
「家に帰った二人は拾った桃を食べようと包丁を用意しました」
「うんうん」
「すると、なんと桃がひとりでに割れて、中から可愛い赤ん坊が生まれました!」
「…へぇー」
「そこは食いつかないのか。一番不思議なところだと思うんだが」
「いや、まぁそういうこともあるかな、って」
「あるか!」
「まぁまぁ、いいじゃん。そんで?」
「もうお前の価値観がよくわからないよ… えーと、赤ん坊は桃太郎と名づけられ」
「ハッ。安易だな」
「ほっとけ。桃太郎はすくすくと成長して立派な青年になりました」
「すっげぇぇーー!!」
「お前絶対食いつくところおかしい」