ショートコント:偉人伝 〜豊臣秀吉〜
(2006/12/27作)


「これ、さる。さるはいるか」
「ここにおります。信長様」
「わしの草履はどこじゃ」
「はっ、これに。私めが懐で温めておきました」
「おお。そちは気が効くのぉ」
「恐れ入ります」
「おお、見事な雪景色じゃの」
「そうでございますね」
「少し庭を散歩するか。さる、傘を持て」
「はっ、これに。私めが懐で温めておきました」
「え、傘を? よく懐に入ったな…」
「恐れ入ります」
「む。そういえばわしの財布がないぞ」
「………………はっ、これに。私めが懐で温めておきました」
「今の間は何だ。本当に温めてたのか。むしろ聞かなかったらずっと温めておくつもりだったんじゃないのか」
「恐れ入ります」
「図星か! 貴様よくそんなことをぬけぬけと!」
「上様」
「なんじゃ!」
「刀の方、私めが懐で温めておきました」
「どこまで準備がいいんだよ! …もうよい。なんだか気を削がれた」
「恐れ入ります」
「しかし見事な雪景色だの」
「左様でございますね」
「真っ白で実に綺麗な雪じゃ」
「上様」
「うん?」
「申し訳ございません。懐で温めておいたのですが…」
「いや、いいよ。どう考えても溶けるし。暖かい雪っていうのもなんかちょっとアレだし」
「恐れ入ります」
「おお、見よ、さる。あそこにうさぎがいるぞ」
「本当でございますね」
「うむ。久々にうさぎ鍋でもつつきたいのぉ」
「はっ、これに。私めが懐で温めておきました」
「いやいやいや。それはなんか嫌だ。人肌の鍋は気持ち悪いよ」
「大丈夫でございます。鍋ではありませんので」
「え、じゃ何」
「うさぎです」
「お前は手品師か!」
「恐れ入ります」
「ところで家康の姿が見えないな。家康はどうした」
「はっ。私めが懐に入れて温めておきました」
「え、それって懐柔したってこと?」