ショートコント:手相探偵
(2007/04/18作)


「この部屋には窓が一つとドアが一つずつしかない。しかしどちらも内側から鍵がかかっている」
「いわゆる密室というやつですね」
「うむ。しかしその中で被害者は背中から刺されて息絶えていた」
「なるほど」
「我々警察ではこの謎がどうしても解けなくてね。最近評判の探偵である君に来てもらったんだ」
「どうも。敦賀市界隈で評判の探偵です」
「ものすごく地域限定なんだな。まぁいい。君の推理を聞かせてほしい」
「わかりました。では刑事さん、ご協力願えますか」
「ああ、なんでも言ってくれ」
「ちょっとお手を拝借」
「手を? 構わんが…私の手なぞどうするんだね」
「見るだけです。ほほう。ふーむ」
「私の手で何かわかるのかい」
「ええ。ばっちりです。刑事さん、あなた…」
「な、なんだね」
「長生きしますね。90歳は行くね」
「は?」
「あ、結婚運は32、3歳あたりでチャンスがありそうですよ」
「いやいや、そうじゃなくて。君は事件を推理してくれるんじゃなかったのか」
「そう仰られましても…なんせ私、手相の方で評判なもので」
「えええー」
「人は私のことをこう呼びます。手相探偵、と」
「知らないよそんなの……もういい、君帰っていいよ」
「まぁまぁ、そう言わずに、私にも事件を見せてくださいよ」
「えー。でも手相しか見れないんだろ?」
「それでも探偵の端くれですから。ね。希望線が現れるかもしれませんよ」
「手相用語で言われても全然ニュアンスがつかめないよ…まぁいい。じゃあ見てくれたまえ」
「ははっ、それではお言葉に甘えまして…ああー、これが被害者ですか」
「ああ。果物ナイフで背中から刺され、肺を貫通している」
「なるほど、これは苦しかったでしょうねぇ。ほら、生命線の末端がこんなに揺れて」
「手相で判断するのか。あくまで手相なのか」
「ふーむ。あ、この方は既婚者だったんですね」
「ん? ああ、そうだ。左手の薬指に指環を嵌めているからな」
「結婚線もそう出てますしね」
「知らないよそこまでは」
「財運線がありますね。資産家のようだ」
「まぁ、この立派な家に入った段階でその辺はわかると思うが」
「なるほど、お医者さんだったんですね、この方は」
「ああ。診療所の院長をやっていたそうだ。よくわかったな」
「ええ、医療線が出ていましたからね」
「あーそうですか」
「ふむ。運命線との交点から寵愛線が細くなっていますね。他人から悪い影響を受けたようです」
「まぁ、殺されてるんだからそりゃそうだろう」
「むむっ。災害線が出ています。一年以内に何か不幸に見舞われますぞ!」
「いや、だからもう殺されてるってば。…まぁ期待はしていなかったが、やはり密室の謎は解けないようだな」
「襲われた被害者が逃げ込んで鍵かけたんじゃないですか? それより見てくださいよこの線」
「そ、それだー!!」
「はい? あ、ですよね、やっぱり直感線があるのって珍しいですよね」
「手相の話じゃない!」
「あ、そうなんですか。すみません、私、手相以外は目に入らなくて」
「そのようだな。見ていて解るよ」
「ほら、私って享楽線が強く出てますし」
「知るかっ!」