ショートコント:夜伽話
(2006/08/21作)
母「さぁ、もう寝なさい」
子「はーい。ママ、何かお話して?」
母「いいわよ。うーん、何の話をしようかしら…」
子「わくわく」
母「むかーしむかし、ある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。夫婦じゃないけど」
子「え、夫婦じゃないの?」
母「籍は入れてないの。同棲中なのね」
子「いい年こいて青春してるんだね」
母「二人は毎晩のようにハッスルしましたが、子供は授かりませんでした」
子「…いい年こいて元気なんだね」
母「ある日、二人はいつものように出かけました。おじいさんは山へしばきに」
子「しばきに!?」
母「あ、芝刈りに」
子「びっくりした…誰をしばくんだと思った」
母「おばあさんはカバの洗濯に」
子「何洗ってんのおばあさん!」
母「おばあさんが洗濯をしていると、川上から大きな大きな…」
子「桃が流れてきたんだよね」
母「津波がどんぶらこ」
子「おばあさん逃げてー!」
母「おばあさんは手に持っていた洗濯板の上に乗り、華麗に波乗り」
子「おばあさんすげぇ」
母「華麗に転覆」
子「おばあさーーん!!!」
母「気が付くとそこは龍宮城でした」
子「すごいとこまで流されたんだね」
母「龍宮城の乙姫様に歓迎を受け、おばあさんは酒池肉林の毎日」
子「何やってんの、おばあさん」
母「その頃おじいさんは山で山狩りにあっていました」
子「えー! 何で追われてるのー!?」
母「さて軽く一週間ほど龍宮城で楽しく過ごしたおばあさん」
子「居座りすぎだよ。図々しいよ」
母「乙姫様からたくさんぶぶ漬けをご馳走になりました」
子「それさっさと帰れって言われてるんだよ。気づこうよ」
母「さすがに家に帰ることにしました」
子「良かった。やっとおばあさんわかってくれた」
母「観たいドラマがあったから」
子「わかってない! ものすごく自分本位!」
母「乙姫様はお土産に玉手箱をくれました」
子「少しだけ乙姫様の悪意を感じるね」
母「要らなかったので、ふただけ開けて龍宮城に放置して帰りました」
子「龍宮城が大変だー!」
母「その頃おじいさんは丸刈りにされていました」
子「なんで!?」
母「地上に戻ったおばあさん。罠にかかった鶴を見つけました」
子「ああ、助けたら恩返しに来てくれるんだね」
母「美味しかったです」
子「食べちゃったー!」
母「家に向かって歩いていると、途中で鬼に出会いました」
子「普通に道端に鬼がいるんだ」
母「ヘイ彼女、一緒にお茶点てない?」
子「ナンパするなよ。しかもちょっと風流」
母「アラ嫌だ。あたしはそんな蓮っ葉な女じゃないワ」
子「何キャラだ、おばあさん」
母「そこに颯爽と現れたわれらがヒーロー!」
子「え、誰?」
母「その名も一寸法師!」
子「またよりによって小さいのが来た」
母「待て鬼! おばあさんが嫌がっていプチ」
子「一寸法師ーー!!」
母「一寸法師は彼らの心の中で生き続けるのです」
子「登場10秒でいきなり過去の人になっちゃったよ」
母「まぁ鬼もおばあさんも彼に気づいてはいなかったんですけれど」
子「心の中にも生きてない!」
母「その頃おじいさんはブルガリの時計を売りさばいていました」
子「なんで!?」
母「さて鬼と懇ろになったおばあさんですが」
子「懇ろになっちゃったんだ」
母「二人で原宿を流していると、お地蔵様が現れました」
子「なんで原宿にお地蔵様が…いや、それ以前に原宿て」
母「とげぬき地蔵です」
子「巣鴨じゃん! 確かにおばあちゃんの原宿だけども!」
母「お地蔵様は二人にこう言いました。悪い子はいねーがー」
子「それ、なまはげの台詞」
母「二人はお供えを用意していなかったため、おばあさんの手ぬぐいをかけてあげました。股間に」
子「ただの悪戯じゃん」
母「するとどうでしょう。お地蔵様が喋り始めたではないですか。不思議!」
子「え。さっき普通になまはげっぽいこと喋ってたよね?」
母「あなたがかけてくれたのはこの金の手ぬぐいですか。それとも銀の手ぬぐいですか」
子「嫌だよそんな手ぬぐい」
母「それともこの鉄の手ぬぐいですか」
子「硬い硬い! そんなの手ぬぐえない!」
母「はい、その鉄の手ぬぐいです」
子「嘘つけ!」
母「あなたはとても正直者です。褒美にこのつづらを差し上げましょう」
子「つづら?」
母「大きいつづらと小さいつづら、どちらにしますか?」
子「ああ、こういうのは欲張って大きい方を選ぶと駄目なんだよね」
母「両方お願いします」
子「超欲張り!」
母「あなたはとても正直者です」
子「悪い意味でね」
母「大小二つのつづらを抱えたおばあさんは家に帰り着きました」
子「結局両方貰えたんだ」
母「鬼とおばあさんは早速つづらの開封に取り掛かりました」
子「おじいさんの帰りは待たないんだね」
母「つづらはからくり箱になっており、開錠に一週間かかりました」
子「お地蔵様、なんでそんな意地悪を…」
母「その頃おじいさんはハンガリーにいました」
子「海外!?」
母「さて、いよいよつづらを開けます。まずは小さいつづら」
子「どきどき」
母「と思ったけど、やっぱり大きいつづら」
子「そんなフェイントは要らない」
母「ごめん、やっぱり小さいつづら」
子「優柔不断だよ。どっちでもいいから早く開けてよ」
母「小さいつづらを開けると、そこには可愛い可愛い赤ん坊が入っていました」
子「わあ」
母「一週間つづらの中に閉じ込められていたので危篤状態でした」
子「わあああ!!」
母「とりあえず赤ん坊は鬼に預け、大きいつづらを開けました」
子「鬼もいい迷惑だ」
母「そこにはおじいさんが入っていました」
子「奇跡のイリュージョン!!」
母「そのおじいさんはガリガリに痩せ細っていました」
子「わああああああ!!」
母「おばあさんと鬼は、その後末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
子「…え? おじいさんと赤ん坊は!?」
母「…………………知りたい?」
子「な、何その沈黙」
母「おじいさんと赤ん坊……二人は…」
子「…………ゴクッ……」
母「………二人は………」
子「………………………」
母「お前の後ろだよ!!」
子「きゃあああああ!!」
母「はい、お話終わり。じゃ寝ましょうね」
子「寝れるかーー!!」