ショートコント:刑事タイプ別飛び降り自殺の止め方
(2008/06/02作)
<人情系刑事>
「待て! 早まるな!」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「バカな真似はやめろ! 故郷(くに)のお母さんが泣いているぞ!」
「ふ、ふざけんな! そんなわけあるか!」
「いいや。親というのはいつどんな時でも子供のことを心配に思っているものなんだ。
例えお前が償いきれないほどの罪を犯したとしても、親だけは最後の最後までお前の味方なんだよ。
きっとお前が生きていてくれることを第一に望んでいるはずだ!」
「親を殺しちゃったから死のうとしてるんだよバカー!」
「あっ」
<理論系刑事>
「待て! 早まるな!」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「バカな真似はやめろ! そこから飛び降りたって死ねないぞ!」
「ふ、ふざけんな! そんなわけあるか!」
「よく見ろ。下に山ほど植木が植わっているだろ。
この程度の高さから飛び降りたって植木のクッションが衝撃を吸収してしまう。
確かにここは自殺の名所といわれている。
だが、実は過去ここから落ちた人間はみんな重体ではあるが生き残っているんだ。
確実に死のうと思ったら、そっちじゃなくてむしろあっちの端から飛び降りた方がいいんじゃないか」
「こっち?」
「そうそう、そっち。あっ」
<宗教系刑事>
「待て! 早まるな!」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「バカな真似はやめろ! 神様はお前のことを見捨てたりしない!」
「ふ、ふざけんな! そんなわけあるか!」
「神は全ての人に平等だ。お前が自らの過ちを悔い改め救いを求めれば必ず応えてくれる。
自殺も罪だ。生まれ変わってからその罪を償わなければならなくなるだけだ。
大丈夫。さぁ、一緒に神の許へ懺悔しに行こう」
「ほ、本当にそれで救われるのか…?」
「ああ大丈夫だ! ところで罪を浄化する壷があるんだが、三十万で…あっ」
<猟奇系刑事>
「待て! 早まるな!」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「バカな真似はやめろ! 飛び降り自殺の死体がどんなに無残か解っているのか!」
「ふ、ふざけんな! そんなこと知るか!」
「人は頭の方が重いから、頭から地面に激突する。下は固いアスファルトだ。
直撃した頭蓋骨は砕け散り、中から脳髄が辺り一面に飛び散るだろう。
赤い血溜りの中、折れた歯が転がり、足はありえない方向に折れ曲がる。
顎が外れ眼球の飛び出した顔は、フフ、もう個人を識別できるような状態になく、
フヒヒヒ、皮膚を突き破った骨が、アハハハハハハハ」
「ひ、ひぃーっ」
「あっ」
<友情系刑事>
「待て! 早まるな!」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「バカな真似はやめろ! お前が死ぬなら俺も死ぬぞ!」
「ふ、ふざけんな! お前は関係ないだろうが!」
「そんな寂しいこと言うなよ。俺とお前の仲だろ」
「いや、今日初めて会ったんだけど」
「死ぬときは一緒と誓ったじゃないか。夕陽に向かって」
「そんなシチュエーションに覚えはねぇよ! バカにしてんのか!」
「いや、いいんだ。お前が俺のためを思って突き放してくれているのは解ってる」
「え、いや、そんなことは全く…」
「解ってる! 皆まで言うな解ってるから」
「いやだから…」
「解ってるから!」
「…こいつ絶対友達いないタイプだ…」
「さ、行こうぜ…俺たちはあの世でもきっと友達だよ…」
「嫌だよ! 一人で死なせてくれよ!」
「そうか…わかったよ、お前の気持ち」
「わかったらとっととどっか行けよ」
「もうお前の前には姿を見せない…だが、これだけは覚えておいてくれ」
「は?」
「俺は、お前のことが大好きなんだぜ! …あっ」
<バラエティ系刑事>
「待て! 早まるな!」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「バカな真似はやめろ! お前が飛び降りるくらいなら俺が飛び降りる!」
「いや待て、俺が飛び降りる!」「バカ言え、俺が飛び降りるぞ!」
「ふ、ふざけんな! 飛び降りるのは俺だ!」
「「「どうぞどうぞ」」」
<ムツゴロウ系刑事>
「よーしよしよしよしよしよしよし」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「はーいはいはい、いいこですねぇー」
「ふ、ふざけんな! つーか人の体を撫で回すな!」
「ほら見てください、このお腹。脂肪がたっぷり詰まってますねぇ」
「ちょ、おま! くすぐったひゃひゃひゃひゃ」
「はいこの指見てください。綺麗な指してます。働いていない証拠ですねぇ」
「お前喧嘩売ってんのか!」
「よーしよしよしよしよし」
「ちょ、ふぐっ、口に手つっこふなっ」
「こんな風に口の中を触られるとヒトは嫌がりますので、皆さんはしないようにしてくださいねぇ」
「じゃあすんなっ」
「あいたっ! 噛みやがったなこの野郎! ぶっ殺してやる!」
「えええー」
<遊園地系刑事>
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「はーい、それでは準備はいいですかぁ?」
「は? お前何言って…」
「では行きましょう。レッツバンジー!」
「いやいやいや、違、うわーーー!」
<外人系刑事>
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「サムダポ! ハゲナプリゼ、ダフダフ! ナツダムケナグレヤッソ!」
「何言ってるのかわかんねぇよちくしょー!」
「ウンバー!」
<ドジっ娘属性系刑事>
「ま、待ってくださぁい! 早まらないでぇ!」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「バカな真似はやめましょう、ね? 生きていればきっといいことがありますよぉ!」
「ふ、ふざけんな! もう俺は死ぬって決めたんだー!」
「あ、危な…きゃっ、つまづいた!」
「ちょ、おま、押すな…うわぁぁぁぁ」
「あぁ! ごめんなさぁい!」
<セロ系刑事>
「待っテ! 早まらないでくだサイ!」
「く、来るな! 俺はもうダメなんだ! 飛び降りて死んでやる!」
「バカな真似はやめなサイ! 飛び降りてもあなたは死ねまセン」
「ふ、ふざけんな! 俺は死ぬんだ! わあああ!」
「オウ…なんということデショウ。彼は飛び降りてしまいまシタ。
でも、まだ望みはありマス。あちらをご覧くだサイ。あそこに古い用具入れがありますネ?
えー、では柴田サン、合図に合わせてあの用具入れを開けてみてくだサイ。いいですカ?
はい。では、3。2。1。ゼロ!」
「…あれ、俺なんでこんなとこに…」
観客「おおおー」