ショートコント:スマートフォン殺人事件
(2018/07/04作)
探偵「なるほど。わかりましたよ警部」
警部「なんだって。本当かい探偵くん」
探偵「ええ。今回の事件、全ての謎が解けました」
警部「謎と言っても、被害者に借金していたA氏が犯人なんじゃないのか」
探偵「いえ、彼はシロです」
警部「なぜそう言い切れる?」
探偵「彼のスマートフォンの通話履歴です」
警部「こ、これは…事件のあった時間帯に電話をしている!」
探偵「はい。通話先は職場でした。裏も取れています」
警部「むむむ。すると一体犯人は誰なんだ」
探偵「犯人は…執事です」
警部「なんだって! しかし執事には鉄壁のアリバイがあるじゃないか!」
探偵「鍵のかかった部屋の中から聞こえた悲鳴を我々と一緒に聞いた、というアリバイですね」
警部「そうだ。彼に犯行は無理だろう」
探偵「いいえ。あの時のことを思いだしてください」
警部「むう。確かあの時は…」
探偵「被害者は約束の時間になってもなかなか部屋から出てこなかった」
警部「うむ。そこで執事が彼を呼びだそうと、内線電話をかけた」
探偵「本当にそれは内線だったのでしょうか?」
警部「何?」
探偵「部屋の中に置いたスマートフォンにかけていたのでは?」
警部「スマートフォン!?」
探偵「そう、あの時の悲鳴はスマホに設定された着信音だったのです」
警部「なんだって!! あの声が着信音!?」
探偵「ええ。被害者は舞台役者。何かの演目での台詞を録音しておいたのではないでしょうか」
警部「なんてことだ…」
探偵「つまり、既にあの時被害者は死んでいた。執事のアリバイは無くなるわけです」
警部「むむむ…うん? ちょっと待ってくれ」
探偵「はい」
警部「犯人が執事となると…問題があるぞ」
探偵「部屋の鍵…でしょうか」
警部「そうだ。あの部屋にはドアが一つ。そしてそのドアには鍵がかかっていた」
探偵「しかし、窓が一つ開いていましたね」
警部「その窓の外は軽い崖になっていて、その下は海だ」
探偵「はい」
警部「外部の人間ならそのまま泳いで逃げたと考えればよいが、屋敷内の人間となるとそうはいかない」
探偵「海に飛び込めば、ずぶ濡れで戻ってこなければなりませんね」
警部「よしんば替えの服を用意したとしても、屋敷内にいる大勢の人間の目を盗んで屋敷内に戻ることは難しい」
探偵「確かに」
警部「そして唯一の部屋の鍵は部屋の中にある机の上だ」
探偵「事実上の密室、というわけですね」
警部「そうなるな。それはどう説明する?」
探偵「恐らく、スマートフォンですね」
警部「またか」
探偵「ドアに鍵をかけた後、スマートフォンでドローンを操作して窓から鍵を運び入れたのです」
警部「えっ。ドローン?」
探偵「はい」
警部「それ、別にスマホじゃなくてもいいんじゃ…」
探偵「スマホのアプリであれば、トリック後に証拠隠滅が容易ですから」
警部「しかし動機は一体何だったんだ?」
探偵「恐らく、スマートフォンのオンライン対戦アプリでしょうね」
警部「えっ」
探偵「二人はゲームの中でよく争い合っていたようです」
警部「ええ…そんな理由…?」
探偵「事件の動機なんて、意外とそんなもんですよ」
警部「…いまいち腑に落ちないが…そうなのか?」
執事「はい。探偵さんのおっしゃる通りです。私が彼を殺しました」
警部「そうか…わかった。執事さん、あなたを逮捕します」
執事「お世話をかけます」
探偵「ちょっと待ってください、警部」
警部「なんだね?」
探偵「一つだけ、私にもわからなかったことがあります」
警部「なんだって?」
探偵「凶器ですよ」
警部「凶器」
探偵「はい。結局凶器は見つからなかったのですよね?」
警部「あ。太くて短い棒状のもので頸椎を突かれた、という検死結果は出ているが」
探偵「凶器は海に捨てられたのでしょう。したがって特定はもはや不可能です」
警部「うむ。特定できたところで特に事件に影響はないが…気になるところではあるな」
探偵「はい。執事さん、凶器は何だったのですか?」
執事「携帯電話のアンテナ部分です」
探偵・警部「そこだけガラケーかよ!」