ショートコント:思考と実践
(2008/04/24作)

「た、隊長! 村です、村が見えました!」
「何! 本当だ、助かった…!」
「ジャングルで迷って数日、水も食料も尽きてしまったが、これでなんとか助かるな…」
「…あの、隊長。村がもう一つ見えますが」
「なんだと」
「ほら、あそこ。ここからだとちょうど同じくらいの距離でしょうか」
「ううむ…そういえば聞いたことがある」
「何ですか、隊長」
「確かこの辺りにはホントゥ村とウッソー村という二つの村があるんだ」
「では、今見えている二つの村がその村である可能性は高いですね」
「だが問題はここからだ。この二つの村、通称『正直村』『嘘吐き村』と呼ばれているんだ」
「正直村と嘘吐き村…ですか?」
「ああ。正直村の村人はとても平和的な民族で、戒律により本当のことしか言わないらしい」
「それは凄い」
「ところが問題は嘘吐き村だ。この村の人間は、なんと食人族なのだ」
「なんですって!」
「しかも恐ろしいことに、村の概観から民族衣装に至るまで正直村をそっくり模倣している」
「まさかそれは…」
「そう、間違えて入ってきた旅人を獲物として狙っているんだよ」
「な…それは恐ろしい…」
「正直村と唯一違う点は、戒律によって本当のことを喋ってはならないとしているところだ」
「すると発言は嘘ばかりになる…そうか、それで嘘吐き村なんですね」
「そういうことだ」
「しかし見た目が一緒なのでは判断のつけようがありませんね…」
「……! 見ろ、あそこに人がいる!
「本当だ。あ、そうだ、あの人に聞いてみましょうよ。どっちが正直村か」
「待て。あの民族衣装…」
「どうしました」
「間違いない、彼は正直村か嘘吐き村、どちらかの人間だよ」
「なんですって」
「道を聞くのはいいが、気をつけろ。彼の発言は本当か嘘かわからないぞ」
「そ、そうですね… あ、では一度答えが明白な質問をしてどっちの人間か見極めてはいかがでしょう」
「だめだ。残念だがそれはやめた方がいい」
「どういうことでしょう」
「この辺りの風習では、何度も質問することは大変失礼なことなんだ」
「そうなんですか」
「ああ。もし彼が平和的な正直村の人間であれば許してくれるかもしれないが、嘘吐き村だった場合…」
「……」
「最悪この場で殺されるかもしれない」
「なんですって…!」
「だから、一度の質問だけで正直村がどっちなのかを聞き出さないといけないんだ」
「これは難しい問題ですね…」

「例えばあの人に向かってストレートに『正直村はどっちでしょう』と聞いたとしよう」
「はい。もし正直村の人であれば素直に正直村の方を指すでしょうね」
「ああ。だがもし嘘吐き村の人だった場合は…」
「嘘だから、嘘吐き村の方を教えられてしまう、わけですね」
「そういうことだ。従ってこの質問は妥当ではない」
「では『嘘吐き村はどっちでしょうか』と聞けばどうですか?」
「同じことだ。正直村の人間なら嘘吐き村を指すし、嘘吐き村の人間なら正直村を指す」
「ダメですね…」
「うーむ」
「うーん…要するに、正直村の人か嘘吐き村の人かで答えが変わるため正解を特定できないんですよね」
「…そうか、つまりどっちの村の人間であったとしても正直村の方を指してくれる質問が必要なんだ」
「なるほど。でもそんな質問はありますか?」
「ある。ちょっと考えればわかる、簡単なことさ」
「えっ。なんですか」
「嘘の嘘は本当、ってことだよ」
「ええと…?」
「こう聞くんだ。『あなたが住んでいる村はどちらですか』
「ほう。すると正直村の人なら当然正直村を指しますね」
「ああ。ではもし嘘吐き村の人間だったら…?」
「ええと、彼の村は本当は嘘吐き村だから…そうか、正直村を指します!」
「そういうことだ」
「なるほど、どっちにしても正直村の方を指してくれるはず、というわけですね」
「ああ」
「考えましたね! よーし、では早速質問してきます!」
「うむ、頼んだぞ!」


「あのー、すみません。ちょっと質問してもいいですか?」