ショートコント:聖夜の誤発注
(2014/12/24作)
「のう、ルドルフや」
「はい、なんでしょう」
「困ったことになったのう」
「困ったことになりましたね」
「なんでこんなことになってしもうたんじゃろうなぁ」
「なんでこんなことになってしまったんでしょうね」
「ここまで誰も気づかなかったのかのう」
「ここまだ誰も気づかなかったんですかね」
「全く、ワシはイケメンじゃのう」
「それはないです」
「……」
「……」
「しかし、さすがにこれはマズいじゃろう」
「さすがにこれはマズいですね」
「納期は今晩じゃぞ」
「納期は今晩ですね」
「もうどう考えても間に合わんわい」
「もうどう考えても間に合いませんね」
「全く、ワシはイケメンじゃのう」
「それはないです」
「……」
「……」
「そもそも、一つだけならともかくどれもこれもダメじゃないか」
「どれもこれもダメですね」
「見てみぃ、この人形」
「小さい女の子向けの着せ替え人形ですね」
「首がないではないか」
「ありますよ。手に持ってますけど」
「なんでそうなるのじゃ。こんな人形もらったら子供が泣いてしまうわ」
「デュラハンの工場に発注したからではないでしょうか」
「ああ、確かに自分たちの姿が基本と思ってたらこうなるよねーってバカ!」
「バカはひどい」
「毎年フェアリーの工場に発注していたじゃないか」
「あそこ今年から値上げしたんですよ」
「世知辛い!」
「まぁパーツはあるんですから、アロンアルファか何かで引っ付ければ大丈夫ですよ」
「仕方ないの…デュラハン達にすぐ作業へ当たらせなさい」
「わかりました」
「では次じゃ。このラジコンカー」
「霊柩車とは斬新ですよね」
「そんなイロモノ、子供たちは求めていないぞ!?」
「一定の人気はありそうですが…」
「それ、ゲーセンのブライズかドンキで売られてるネタ商品枠だから!!」
「あっ。このボタン押すと棺桶が出てくる」
「無駄に懲りすぎじゃ! 余計なところに技術と予算使うな!」
「日本の幽霊の工場に発注したのが間違いだったんでしょうか」
「あーあーあー。彼らが最後に乗った車じゃからのーってバカ!」
「バカはひどい」
「仕方ない、せめて上の家みたいなやつを外させなさい」
「えー、でもそれだとラジコンの中身が丸見えに…」
「霊柩車よりはマシじゃ!」
「わかりました」
「では次。次はこれじゃ」
「ああ、話題のゲームソフトですね」
「うむ。よくこれだけの数が手に入ったのう」
「マジコンって便利ですよね」
「それ!! それがダメ!!」
「えっ。何が」
「何がじゃないわい! 子供たちに夢を与える存在が違法コピーしてどうすんじゃ!」
「大丈夫です。妖怪の工場に発注しましたから」
「あーそれなら仕方ないよねー、妖怪の仕業だからねーってバカ!」
「バカはひどい」
「メタすぎるわ! ゲーム内の理屈をそのゲームそのものに持ってくるでない!」
「まぁ、実際妖怪なら人間の法は適用されませんし」
「それをプレイする子供らは人間! にーんーげーん!!」
「落ち着いてください。血管切れますよ」
「はぁ、はぁ、はぁ… とにかくこのゲームソフトは配れん」
「どうしましょう」
「お詫びの手紙と予約券を入れておきなさい。メーカーとは後から交渉じゃ」
「わかりました」
「さて、そして次じゃ」
「シルバニアファミリーですね。うさぎの人形たちが住むドールハウス」
「これを見てなおそんなことが言えるのか」
「…穴、ですね」
「うむ。巣穴じゃ」
「シルバニアファミリーってアナウサギでしたっけ?」
「知らないけど、まぁアナウサギなら地中に巣穴を掘って棲んでるよねーってバカ!」
「バカはひどい」
「そんなリアル設定は要らないの! この子らは綺麗な家に住んでるの!」
「森の精霊たちの工場に頼んだので、ありのままの姿になってしまったのかと」
「ちゃんと発注した!? ちょっと全体的に杜撰すぎない!?」
「多少、情報に齟齬があったかもしれません」
「ああもう。仕方ない、さっきの霊柩車の家みたいなやつをくっつけときなさい」
「ハハッ。リサイクルですね」
「やかましいわ!」
「わかりました」
「次はこれじゃ。サッカーボール」
「首ですね」
「作ったの、デュラハンの工場じゃろ」
「正解です」
「だとしてもおかしいわ! デュラハンは首でサッカーするのかよ!」
「オーバーヘッドキックとかしたらメタですね」
「そうそう、頭の上で首を蹴るとかもー意味解らんわーハッハッハってバカ!」
「バカはひどい」
「誤発注とかそういうレベルじゃないぞこれ…」
「どうしましょう」
「もういい、この上から白黒に塗ってしまえ。フェイスペイントじゃ」
「わかりました」
「それから次は…本じゃな」
「あ、これはなんか大丈夫そうですね」
「小説、漫画、図鑑…うむ、いろいろ取り揃えておるの」
「はい。サキュバスの卸業者はちゃんと仕事してくれたんですね」
「……サキュバス?」
「はい」
「おい、全巻中身チェックしろ。今すぐに」
「あ。カバーだけまともで、中身エロ本だ」
「これもじゃ…これも。これもこれもこれも。ていうか全部!」
「あー。道理で引き渡しの時にやにやしてたと思った」
「すぐに連絡しろ! カバーがあるんだから中身もまだ残っているはずじゃ!」
「わかりました」
「あー! もー! まともなのが一つもないではないか!」
「本当に全部ぐだぐだでしたね」
「大丈夫かのう…今晩ちゃんと子供たちにプレゼントを配れるんじゃろうか…」
「ですよねぇ。ソリも壊れちゃいましたし」
「えー! なにそれ!? 初耳なんじゃけど!?」
「あー。そうか、伝言預けたトナカイ、鬱発症して出社拒否したんでした」
「はっ!? トナカイも足りないの!?」
「いえ、足りなくはないですよ」
「そ、そうか。良かった。一瞬焦ったわい」
「一匹もいません」
「もっと酷かったー!? ていうかルドルフ、お前は!?」
「え? 私ヌーですけど」
「トナカイじゃないの!? ていうかなんで北欧にヌーいるの!?」
「バイトで」
「えらく軽いノリで北欧来たのね!?」
「ソリ引くくらいならいけるかなって。まぁ、そのソリがないんですけど(笑)」
「かっこ笑いじゃないよ! 大問題じゃないか!」
「台車があるからこれでいいじゃないですか」
「ヌーが台車引いたら、もうますます東南アジアっぽいよね!?」
「いや、ていうか」
「なんじゃ!」
「あなた誰なんですか? 突然サンタ事務所に押し掛けてきて」