ショートコント:精霊
(2007/10/09作)

「ふー。今日も疲れた疲れた」
「お帰りなさーい」
「ただいま…って、えええ!? 誰だお前!?
「お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも…和・菓・子?」
「なんで帰宅していきなりおやつタイム突入しなきゃいかんのだ。じゃなくて、誰だよお前!」
「あ、これはどうも、ご紹介が遅れました。私、精霊です」
「…は?」
「精霊です。せ・い・れ・い。ゆーあんだすたん?」
「いや、日本語について英語で確認されても。精霊? ほんとに?」
「はい! その証拠にホラ、背中に羽がついてるでしょ」
「あ、ほんとだ」
「最近流行のアクセサリーなんですよ」
「生えてるんじゃないのか。全然証拠になってない」
「え。でも、ほら。『Made in Fairy Land』って書いてあるでしょ」
「うわー、うさんくせぇー」
「私は人間さんを幸せにするために、精霊の街からやってきたのです」
「へー。精霊の街なんてのがあるんだ」
「はい。精霊指定都市です」
「それは本当に精霊の街なのか。『せいれい』違いじゃなくてか」
「はい。そこにはいろんな精霊が住んでいるんですよ」
「へぇ。例えば」
「有名なのはやはり五大元素の精霊ですね。火の精、水の精、木の精、金の精、土の精、木の精」
「今、木の精二回言わなかったか?」
「気のせいです」
「そんな所でうまいこと言わなくていい」
「そうですか」
「じゃ、お前は何の精なわけ?」
「私ですか? いやー、恥ずかしながら、五大元素の精霊様たちに比べたら全然大したことないですよ」
「ふぅん?」
地球の精です」
「でかっ! スケールでかっ! 五大元素どころの騒ぎじゃない!」
「いやいや私なんてまだまだひよっこですよ。精霊歴たかだか50億年程度ですし」
「尺度がもう、人間の把握できるレベルじゃないよ…」
「あっ」
「え、何」
「あ、いえ。気にしないでください。ちょっと中近東辺りがチクッとしただけです」
「まるで虫刺されみたいにさらっと言ってるけど、それってもしかして血生臭い何かがあったのかな…」
「いやー、最近暑いですねー」
「え? ああ、そうだね。いつまでも夏みたいだよね」
「ヴュルム氷期の頃はもっと涼しかったんですけど」
「うわー、話の単位が全然違うー」
「もう日焼けが気になって仕方ないんですよ。紫外線強くなった気がしません?」
「…えっと、ごめん。多分それオゾン層破壊が原因だと思う」
「日焼け跡が痒くて仕方ないんですけど、あんまり掻いちゃダメなんですよね」
「ああ、掻いたところが傷になるって聞いたことが…」
「掻いたところが地震になるんです」
「ええー! 何、最近地震多いなぁと思ったらそういうことなの!?」
「はい。特に手首の辺りがすごく痒くって、なかなか我慢できないんですよね。ポリポリ」
「うわわわわわわ! 地震だー!」
「あー、すっきり」
「日本か! 手首、日本か!」
「あ、蚊だ! ぱちん。やった。仕留めた」
「…手の平に当たる国、今大変なことになってるんだろうなぁ…」
「雑談で打ち解けたところで、どうですか。私をこの家に置いてくれますか」
「えー…なんかそれってものすごく責任重大な気がするんですけど…」
「大丈夫ですよ。そんな大層に考えないでください」
「そ、そう?」
「たかだか惑星一個じゃないですか」
「いやいやいや! 僕らはそのたかだか一個の惑星に住んでるわけで!」
「ご迷惑はおかけしませんので」
「いや…まぁいいけど…」
「わぁ、ありがとうございます! 不束者ですがよろしくお願いします!」
「あ、はい、どうも」
「これ詰まらない物ですが」
「あ、これはご丁寧に」
「イベリア半島です」
「ええー!? どういうこと!?」
「深く考えたらたぶん負けだと思います」
「そ、そうですか… ところで、一つ聞いてもいいかな」
「はい、なんでしょう」
「さっきからその…なんか君の周りをぶんぶんぶんぶん虫が飛び回ってるようなんだけど…」
「ああ、これですか。これは虫じゃないですよ」
「え、そうなの?」
「これ全部、人工衛星の精です」