ショートコント:猿蟹長者
(2013/5/22作)


猿「…どうなってんの、これ」
蟹「あ! 猿さんこんにちは!」
猿「お、おう」
蟹「いやー、この間はありがとうございました!」
猿「…俺なんかしたっけ」
蟹「いやだなぁ。おにぎりと柿の種を交換してくれたじゃないですかー」
猿「あ、あぁ。それはまぁ…」
蟹「おかげ様でホラ、今ではこの通り大金持ちですよ」
猿「えっ。なんで。柿の種でなんでこんな金持ちになれるの」
蟹「はい! あの後いろいろありまして、結果的にこんな感じに」
猿「いろいろって…」
蟹「ええ、話せば長いことなのですが」
猿「聞かせてくれ」

蟹「猿さんに柿の種を貰った後、埋める場所を探していたら栗さんに会ったんです」
猿「栗?」
蟹「はい、正史では囲炉裏の中から猿さんに攻撃を仕掛けるあの栗さんです」
猿「メタ発言はやめなさい」
蟹「そしたら柿の種を見るや否や『こ、これは柿姉さんの忘れ形見…!!』って」
猿「知り合いだったのか」
蟹「どうでもいいけど、柿と姉って漢字似てますよね」
猿「本当にどうでもいいな」
蟹「で、詳しい話を聞かせてほしいというので、栗さんの家にお邪魔しまして」
猿「はぁ…」
蟹「猿さんに頂いたことを話すと、栗さんは
  『そうか、あいつが柿姉さんを…』と怒りに打ち震えていました」
猿「あれ、俺やばいんじゃね…?」
蟹「柿の種ちゃんは、栗さんと知り合いの桃さんが二人で引き取って育てるそうです」
猿「桃栗三年柿八年ってか。あ、それで柿だけ姉さんなのか」

蟹「それで、お礼にと桃の天然水を頂きまして」
猿「唐突に商品名だな」
蟹「とっても美味しくって、ちびちび飲んでいたんですよ」
猿「お前、本当に蟹か…?」
蟹「そしたらその香りに誘われて蜂さんがやってきまして」
猿「蜂?」
蟹「はい。正史では火傷を冷やすために顔を突っ込んだ水桶で刺してくるあの蜂さんです」
猿「だからメタ発言はやめろ」
蟹「蜂蜜を作るのに欲しいというので分けてあげたんですが」
猿「何かあったのか」
蟹「ええ。同じく香りに誘われて、恐ろしいスズメバチまでが現れたんです」
猿「そいつは大変だ」
蟹「私は外骨格があるのでそれを武器に戦いましたが、敵もなかなか手強く」
猿「まぁ、スズメバチだからなぁ…」
蟹「仕方ないので『そういえば猿さんがスズメバチの悪口言ってたよ』と言ったら
  激昂してどこかに飛んでいきました」
「ぅおおおおい!! 何してくれてんの!? バカなの!?」
蟹「すみません。こうするしかハサミがなくて」
猿「手な! 『手がない』な! 確かに蟹は手の代わりにハサミだけども!」

蟹「それで蜂さんにすごく感謝されまして。お礼に蜜蝋を頂きました」
猿「蜜蝋?」
蟹「蜂さんが蜂の巣を固めるために分泌する物質ですね」
猿「なるほど」
蟹「使い道を考えながら歩いていたら、今度は臼さんに出会いまして」
猿「臼…」
蟹「はい。正史では屋根の上から飛び降りて猿さんにトドメを刺すあの臼さんです」
猿「なんかメタ発言聞くたびに俺凹んでくるんだけど」
蟹「ところが臼さん、怪我をしていたんですよ」
猿「怪我?」
蟹「はい。杵の落としどころがずれて、一部欠けちゃったんだそうで」
猿「はぁ」
蟹「なので、蜜蝋で修理してあげました。臼さんも喜んでくれましたよ」
猿「そりゃ良かったな」
蟹「はい! 臼さん、とても嬉しそうに
  『これでいつでも猿の野郎を押し潰せるっス!』って言ってました!」
「待って! なんで俺押し潰されるの前提なの!?」
蟹「それで、お礼にお餅をもらいまして」
「スルースキル高いなお前!」

蟹「お餅を持って家に帰ろうと歩いていると、俄かに異臭が」
猿「異臭?」
蟹「はい。よく見たら、牛糞さんが道じゅうに」
猿「道じゅう!?」
蟹「昨日の雨でドロドロのベチャベチャになって広がっちゃったらしいです」
猿「うげぇ…」
蟹「可哀想だしさすがに迷惑だったので、お餅をあげました」
猿「餅でなんとかなるのかよ」
蟹「練りこむような感じでなんとかひと固まりになりましたよ」
猿「うげぇ…想像したくないわ…」
蟹「あ、忘れてた。ちなみに正史で猿さんを滑って転ばせるあの牛糞さんです」
猿「忘れたまんまでいて欲しかった!」
蟹「牛糞さんは物凄く感謝していて、お礼がしたいって言うんですね」
猿「牛糞から何か貰えるものあるのかよ…」
「運をつけてくれました」
「そう来たか!」

蟹「それからです。何をやっても上手くいって、あれよあれよという間にこの通り」
猿「マジかよ…」
蟹「あ、牛糞さんに『もともと猿さんに柿の種をもらったおかげなんですよ』って
  説明したので、近いうちご挨拶に伺うって言ってましたよ」
猿「来なくていいよ! 牛糞に訪ねてこられても迷惑だよ!
  しかも悪意がない分余計に厄介だよ!」
蟹「そんなわけで、今では子供たちと一緒に裕福に暮らさせて頂いています。
  それもこれも猿さんが柿の種を下さったおかげです。ありがとうございます!」
猿「本当に感謝してる? さっきからネチネチ復讐されている気がするんだけど」
蟹「いえいえとんでもない。あなたは私の恩人ですよ!」
猿「そ、そうかよ」
蟹「はい! 消費期限切れのおにぎりも引き取ってもらいましたし」
猿「えっ」