ショートコント:プレコグニション
(2006/04/26作)


「いらっしゃいませ。お久しぶりです」
「え、いや、俺初めてなんですけど…」
「あ、そうでしたか。どうも職業柄、誰でも顔見知りのような気がしてしまって」
「あ、ええと、ではあなたが有名な予知能力者の…?」
「はい。赤類未来(あかるいみらい)と申します」
「あ、はい。どうぞよろしくお願いします」
「ちなみに本名は倉井加子(くらいかこ)です」
「意味深っすね」
「では早速あなたの未来をズバリ言い当てて見せましょう」
「えっ。いきなりですか」
「あなたは…今から"は?"と言う!」
「……は?」
「ほら当たった!」
「いや、そんな超近未来の予知は求めてないから」
「軽いジャブです」
「そうですか」
「で、一体あなたは未来の何を知りたいのですか?」
「あ、はい。実は…」
「ストップ!」
「え」
「言わずとも分かっております。私は予知能力者ですから」
「なら聞くなよ」
「あなたはズバリ…お仕事の未来について聞きたいと思っている!」
「す、すごい! そのとおりです!」
「やった! 一発で当たった
「ちょっと待て。なんだ今の不穏なセリフは」
「当たったから、はいお代」
「嫌だよ! まだ何も知りたいこと聞いてないのに」
「ち。まぁもらえないのはわかってましたけどね。予知能力者だから」
「じゃあ聞くなよ」
「人間って可能性がゼロでも淡い期待を抱いてしまうものなのですよ」
「はぁ。そうですか」
「で、あなたは未来の何を知りたいのですか?」
「あんた未来は見えても過去はすぐ忘れるんだな」
「ああ、そこまでは行ったんだっけ。わかってるんですけど会話がどこまで進んだかわからなくなっちゃって」
「そういう次元なんだ、予知能力者的には」
「ではあなたの未来のお仕事についてお教えしましょう」
「お願いします」
「あなたはズバリ…二年後に転職します!」
「ええっ。今の仕事気に入ってるのに、転職しちゃうんですか」
「あなたが気に入っていても他の人があなたを気に入っていないってこと、ありますよね」
さらっと傷ついた。俺、そうなんですか…?」
「あー、一般論一般論。気にしないでおいて」
「あ、はい。なんだ、安心しました」
「はい、安心してください。(…そうしてくれないと未来が変わっちゃうから)」
「今なんか言いました?」
「いえ、何も」
「ええと、転職というと私何になるんでしょうか」
売却臓器の生産業ですねー」
「いやいやいや! それ仕事違うよね!? 身体切り売りしてるよね!? しかも違法だよね!?」
「捕まりはしませんよ。その前に死ぬし
「えー!」
「あ。言っちゃった」
「おおお俺死ぬんですかっ!?」
「だ、大丈夫。あの世は極楽ですよ」
「当たり前だよ! 慰めにすらなってないよ!」
「まぁまぁ。占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦って言いますから」
「あ、そ、そうですよね。外れる可能性もありますよね」
「私のは占いじゃなくて予知ですけどね」
「うわーん! 俺やっぱり死ぬんだー!」
「ふう。仕方ない。私がうっかり口を滑らせたのが悪いんですし、お教えしましょう」
「……?」
「未来は変えることが出来ます」
「えっ」
「あなたは今ひとつの未来を知ってしまいました」
「はい」
「ならそうならないように生活していけば避けられるはずです」
「そ、そうなんですか!」
「私の言うとおりにしなさい。そうすれば助かります」
「は、はい!」
「とりあえずこの幸運の壷を購入していただいて…」
「やっぱりそう来るんかい」
「冗談です。お約束というやつです」
「心臓に悪い冗談はやめてくださいよ」
「そうですね。心臓が悪くなったら高値で売れなくなりますしね」
「売らないよ!」
「占いではありません。予知です」
「このタイミングでそんなシャレは聞きたくない」
「すみません。では今度こそ助かる方法をお教えします」
「はい」
「私の言うとおりにしてくださいね」
「はい!」
「まず、ここを出る時は左足から出てください」
「…は?」
「右足から出るとワンちゃんの落し物を踏んでしまいます」
「そんなミクロなアドバイスはいいよ! 死なないアドバイスしてよ!」
「あ、はい。わかりました。えーと、そうですね…」
「……」
「とりあえず転職するのを止めた方が良いですね。そんなことわかってるよ」
「そんなことわかってるよ! ってツッコミを予知すんな!
「あ」
「え、な、何」
「明日雨だ」
「そんな予知を唐突に挟むなよ! 心臓に悪い!」
「そうですね。心臓が悪くなったら…」
「売らない!」
「予知です。いい加減にしろよお前」
「いい加減にしろよお前! だからツッコミを予知すんなー!」
「お約束です」
「全く気分悪い! もういいよ! 俺は帰る!」
「あー。無事に帰れればいいんですけどね…」
「気味の悪いこと言うな! 二度と来るかこんなとこ! …うぉっ、ウンコ踏んだ」
「だから左足から出るよう言ったのに」
「うるさいうるさい! お前いちいち癪に障るんだよ!」
「はい。よく言われますー」
「ふざけんな! 一昨日来やがれ!
「ですよね? 改めまして、お久しぶりです」