ショートコント:平和的な桃太郎
(2005/2/28作)


「ぴんぽーん」
「はいはい。ええと、どちら様でしょう」
「あ、どうも、夜分恐れ入ります。私、桃太郎と申します」
「え。桃太郎さんですか」
「こちらは鬼の皆さんのお宅ですよね?」
「そうですけど…ええと、征伐にいらしたんでしょうか?」
「あ、ええと、一応そういうことになってはいるんですけど…」
「ですけど?」
「いや、正直私もあんまり野蛮なことはしたくないもので、とりあえず話し合いに」
「え。話し合いですか」
「はい。話し合いです」
「それはこちらとしても助かりますが…ええと、失礼ですけど、騙し討ちと言う事は…」
「あー、ですよねぇ。やっぱり疑いますよねぇ。すみません」
「あ、いえいえ、すみませんこちらこそ。恐縮です」
「いえいえ、ほんとすみません」
「いえいえ、こちらこそすみません」
「ええとですね、じゃあ戦う意思がない証拠として、刀、これお預けします」
「あ、これはどうもお気を使って頂いて…ほんとに申し訳ないです」
「いえいえ、こちらこそ」
「いえいえ、こちらこそ。ささ、どうぞお上がり下さい」
「あ、それでは失礼します」
「スリッパどうぞ」
「どうもどうも」
「あれ、お連れ様はいらっしゃらないんですか?」
「それが…」
「何かありましたか」
「なかなか今のご時世世知辛いようで」
「はあ」
「鬼と戦うのに報酬がきび団子だけというのは労働対価が見合っていないと雉が」
「おやおや」
「きいきい抗議の声を上げていたせいか通り掛かりの猟師に撃たれてしまいまして」
「雉も鳴かずば撃たれまい、というやつですね」
「それに恐れをなした犬が、文字通りしっぽを巻いて逃亡」
「まさに負け犬」
「普段から犬と犬猿の仲だった猿は、そんな犬のことを臆病者だと嘲笑ってましたけど」
「はい」
「野宿して朝目覚めたらいないんですよ。あいつも結局同じ臆病者でした」
「猿の尻笑いですね」
「あ、そうそう、これお土産のきび団子です」
「あ、これはこれはどうもご丁寧に」
「余り物で申し訳ないですが」
「いえいえとんでもない」
「しかしあれですね、良いお住まいですね」
「恐れ入ります」
「アンティークな雰囲気が私好みです」
「そうですか。私も結構気に入ってるんです」
「あの壷とか高そうですね。やはりどこかから奪ってきたものですか」
「いえいえ、全て実費で購入したものですよ」
「あっ、これは失礼致しました」
「いえいえお気になさらず。世間でそう思われているのは承知しております」
「え、するとあちこちの村を襲っているという噂は」
「デマでしょう。山賊あたりにやられたのではないでしょうか」
「そうだったんですか」
「噂が伝わるうちに犯人が鬼ということになってしまったのではないかと」
「なんとも、重ね重ねご迷惑をおかけしてしまって」
「いやいや、そんな、恐縮です」
「ではその旨、帰って村の者に伝えたいと思います」
「よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
「あ、ではこちらお土産にどうぞ」
「え。いや、そんな高価なもの、いけません」
「まぁまぁそう仰らずに。金なんて鬼の世界では特に必要の無いものです」
「いえいえ本当に。だめですだめです」
「ほんと遠慮なさらず。我々からのお近づきの印ということで」
「いやでも」
「お土産も持たせないで帰ったのでは鬼の面目が立ちません」
「そうですか…ではありがたく頂戴致します」
「村の方々にどうぞよろしくお伝え下さい」

〜村〜

「ただいまー」
「おお、桃太郎お帰り。無事じゃったかい?」
「いや、あのね、実は鬼は悪くなくて」
「金じゃないかえ! まぁまぁ、とうとうにっくき鬼を倒したんだね」
「あ、いや、これは鬼さんたちからのおみや」
「おじいさん! おじいさん! 桃太郎が鬼を退治して帰ってきたよ!」
「ち、違」
「おお! よくやったぞ桃太郎!」
「いやあの」
「村の人たちに知らせてきますね」
「だから」
「うむ! 今日は村を挙げての祭りじゃ!」



 うん、多分雉が一番災難。