ショートコント:オズの魔法使い
(2004/9/1作)


♪Somewhere over the rainbow Way up high
     There's a land that I heard of Once in a lullaby

                          「Over the Rainbow」 lylics : E.Y.Harburg


 竜巻で飛ばされたドロシーが、家に帰るためにオズの国を目指して歩いています。
 しばらく歩いていると、カカシに出会いました。

「オラ、脳みそが欲しいだ。オズの王様に会って脳みそをもらうだよ」
「そうなんだ。でも脳みそなんかあっても大変なだけだと思うけど」
「そんなことねぇ! おめぇら人間は脳みそあるからそんなことが言えるだ」
「だって重いよ?
「それくらい…」
「脳みそだけで何kgあるか知ってる?
 成人男性で約1.5kg。カカシさんの藁でできた体じゃ支えきれないわね。
 そもそも脳みそを働かせるには血液や酸素が必要よ。となると体も取り替えてもらわなくちゃ」

「…だ、だったらそうして…」
「頭も体も取り替えちゃうの? それ、カカシさんじゃなくなるよ?
「むむ…」
「そもそも脳みそって、物を考えたり体の動きを掌ったりする臓器でしょ。
 カカシさん、そんなのなくても今動いたりしゃべったりしてるじゃない

「…た、確かに…」
「体ごと取り換える労力払っても、メリットなんてないと思うんだけど」
「むう…」
「むしろ、そんなものなくても自由に動けているカカシさんの体って、脳みそのある人間よりもスゴイと思うわ」
「そ、そう?」
「うんうん。ほんとそう思う」
「そ、そうか。オラってすごいんだ。ありがとう。自信出てきた」

「うん、がんばって!」

 カカシと別れたドロシーが再び歩いていると、脇の草むらから一匹のライオンが飛び出してきました。

「お、おれもオズの国に行くぞ。行って勇気をもらうんだ」
「勇気?」
「うん。おれ、ライオンのくせに気が小さくて、いつも仲間に馬鹿にされてるから」
「そう。ライオンの世界も大変なのね。でも、それって何の解決にもなっていなくない?」
「ど、どういう意味だ?」
「うーん、そもそも抽象的なものだから表現し辛いんだけど、例えば本当にオズの王様に会って勇気をもらうとするわよね。でもそれ、あなたの勇気じゃないでしょ?
「え?」
「オズの王様からもらった勇気なんでしょ?」
「う? うーん、まぁそうかな」
「それで仲間に馬鹿にされなくなる?」
「う…」
「結局、オズの王様に助けてもらわないと勇気を出せないライオンってことなんじゃないの?」
「うう…」
「そもそも、そんなことを他人に頼ろうっていう発想自体間違ってると思うんだけど」
「だ…だって…だって…」
「…ねぇ、ライオンさん」
「ん?」
「ライオンさん、一時だけでも本気でオズの国に行こうって決心したんだよね?」
「え…う、うん」
「大変な旅になるとか、思わなかった?」
「そ、そりゃ思ったけど…で、でも、勇気がもらえるなら、どんな困難でも立ち向かう覚悟はあるさ!」
「…そっか。ふふ」
「な、なんだよ」
「それってさ、勇気だよね?」
「え?」
「どんな困難でも立ち向かう覚悟をしたんでしょ? それってさ、すごい勇気だと思わない?」
「あ…」
「ライオンさん、もう勇気持ってるんだよ。ね?」
「そうか…そうなんだ。おれもやればできるんだ。なんか自信出てきたぞ」

「うん、がんばって!」

 さらにドロシーが歩いていると、ブリキのきこりが現れました。

「ぼくはブリキだ。ブリキには心がない。心が欲しい。ぼくもオズの国へ行くぞ」
「そうなんだ。でも心って何?
「知らないよ。ぼくにはないもん」
「あら、私もわからないわよ?」
「えっ。人間なのに?」
「うん。きっとそれだけ奥が深いものなのね」
「へえ、ますます欲しくなってきたぞ」
「うーん、そんなに欲しい?」
「ああ、欲しいさ」
「欲しいっていう気持ちは心じゃないの?」
「え?」
「それも心の一つだと思うけどなぁ」
「そ、そうなの?」
「うん。ブリキさん、もう持ってるんじゃない? 心」
「だ、だってぼくはブリキ…」
「ブリキに心がないなんて誰が決めたの?」
「え…そ、それは…」
「人間でもわからないものなのに、ブリキさんにないなんて言い切れないよ」
「そう…なのかな」
「うん。もう一度自分を見つめ直してみると良いんじゃないかな。
 きっとブリキさんの心がいっぱい見つかるよ」

「そうか…うん、わかった。がんばってみる」

「うん、がんばって!」

 そして一人でオズの国まで行ったドロシーは、多勢に無勢で悪い魔女にやられてしまいましたとさ。めでたしめでたし。
 みんなも自分の意思をちゃんと持って、他人の口先三寸には騙されないようにしようね。