ショートコント:霊験あらたかなお守り
(2006/05/17作)
「あのー、すみません」
「はい! お帰りなさいませ、ご主人様」
「は!? えっと…あの、ここ神社ですよね…?」
「はい。神社の社務所ですよ」
「なんですか、お帰りなさいって」
「いやほら、最近メイド喫茶が流行じゃないですか」
「はぁ」
「だからうちもちょっとメイド神社路線を目指そうかなって。斬新じゃありません?」
「斬新過ぎてありがたみが全くないよ」
「でも萌えるでしょ?」
「神社は本来萌えるところじゃない」
「だって、そうなると私、巫女メイドですよ?」
「どこのエロゲーだよ」
「あ…そっか、そうですね、すみません」
「わかってくれればいいですけど」
「本業は巫女だから、メイド巫女と言うべきでしたね」
「わかってない! 全然わかってない!」
「あれー?」
「もういいです。僕はお守りを買いに来たんです」
「あ、はい。どれに致しますか? いろいろございますよ。ピンからキリまで」
「ランクで分けるなよ! 種類で分けろよ!」
「もちろん種類も多種多様用意しております。うちは品揃え豊富なのがウリですので」
「ウリて」
「なんせキャッチフレーズは"やってみますの神社です"ですから」
「豪快にパクってるよね、
ミドリ電化あたりから。ネタがローカルすぎる」
「例えば当店No.1の人気商品はこちら」
「…当店?」
「世界征服のお守りです」
「は?」
「世界征服が成就しますように、という願いを叶えるための霊験あらたかなお守りです」
「いきなり物騒だよ! しかもそれが人気No.1て」
「良く効くと評判ですよー」
「ちょっと待て。大勢の人が世界征服のお守り持ったら、結局誰が征服するんだ」
「では次の商品をご紹介しますねー」
「答える気なしか!」
「これが安産祈願のお守りです」
「…普通ですね」
「そりゃ普通のものもありますよぉ」
「普通じゃないものってことは認識してるんだ」
「で、こっちが難産祈願のお守り」
「待て待て待て。なんでわざわざ難産を祈願するんですか」
「うーん。チャレンジャーな人とか」
「そんなところにチャレンジを望む人がいるのか」
「あとは奥さんを恨んでる人?」
「呪いのアイテムじゃん」
「あ、呪いと言えばこっちに流産祈願のお守りも…」
「やっぱり呪いだと認識してるんだ!」
「えーと、これが交通安全週間のお守りでー」
「…週間?」
「こっちが補欠合格祈願のお守りです」
「補欠じゃなくてもいいじゃん! 普通に合格しようよ!」
「特殊なものとしては、御神籤のお守りというのもあります」
「御神籤のお守り?」
「はい。おみくじを引くときに持っておくと縁起が良いとされている霊験あらたかなお守りです」
「なんか本末転倒な気もするけど、そうなんですか」
「おみくじの結果に合わせて種類もたくさんありますよー」
「へぇ」
「大吉、中吉、小吉、吉、凶、大凶、巨大凶、特大凶、超大凶、無限大凶、最悪大凶、生きる資格無し」
「凶以降が充実しすぎだ。嫌だよそんなおみくじ」
「窓口でそのお守りを渡して頂きますと、該当するおみくじがもらえるんです」
「おみくじの意味ねぇー!!」
「あ、でしたらこちらのお守りはいかがですか。とっても実用的ですよ」
「なんですか?」
「銃弾防御のお守り」
「日本で銃撃されるシチュエーションは滅多にない」
「中に鉄板が入っています」
「それもうお守りっていうかプロテクターですよね?」
「悪党と撃ち合いになりお互いに相打ち。ヒロインのベティが主人公ジャックに駆け寄るんです」
「は?」
「恋人の骸を抱えて悲しみにくれるベティ。しかしその時、ジャックの指がピクリと動く」
「……」
「うっすらと目を開け、自分でも生きていることに驚くジャック」
「……」
「そして自分の身体を調べてみると…胸のポケットから弾の食い込んだ銃弾防御のお守りが!」
「……」
「これは奇跡だ! 神様ありがとう! と胸で十字を切る二人」
「宗派違くね?」
「ドラマチックじゃないですか。いかがですか、おひとつ」
「もしも頭撃ち抜かれてたら即死じゃん。いらない」
「ではこちらはいかがでしょう。お守りのお守り」
「…は?」
「例えば、合格祈願のお守りを買った。けどちゃんと効くかどうか心配だ…」
「……」
「そんな時にこのお守りのお守り。なんとお守りの効果が現れるように祈願する霊験あらたかなお守りです」
「ややこしいよ! 大体そんなこと言い出したらお守りのお守りのお守りも必要になるじゃないか」
「これのことですか?」
「本当にあるのかよ!」
「お守りのお守りのお守りのお守りもありますよ」
「…マトリョーシカだなこれじゃ」
「お守りのお守りのお守りのおまろみのおなもみも…」
「言えてないじゃないか。自分でも混乱してるでしょ」
「そんな時にはこの早口言葉のお守りですよ」
「ええー!」
「これを持っていれば、早口言葉もなんのその! 東京都きょっかきょかきょく」
「言えてない。言えてない」
「がすばすがすがす!」
「もう元が何かもわからない」
「生麦生米生なまこー!」
「なんか気持ち悪いのが混ざった!」
「どうですか」
「全然だめじゃん。まったく効いてないよ」
「あ、そうか、わかった」
「?」
「これこれ、これを持っていたせいですよ。お守らない」
「…は?」
「お守らない。"お守らない"っていう名前のお守りです」
「何それ」
「祈願しているものが絶対に叶わないという霊験あらたかなお守りです」
「なんでそんな余計な物を作った」
「えーと…呪い?」
「呪いのアイテム多すぎるよ」
「で、どのお守りをお探しなんですか?」
「普通のお守りでいいです」
「そういうのは取り扱っておりません」
「えええー」
「申し訳ありません」
「これだけ妙なお守り置いてるくせに普通のお守りはないのか…」
「代わりにこちらの恋愛ジョーズのお守りなどいかがでしょう」
「成就じゃないんだ」
「はい。姿を隠しながら少しずつ相手に迫り、恐怖を与えつつ一気にザバーガブッと」
「恋愛の相手に恐怖与えてどうすんだよ。ていうかストーカーじゃないかそれ」
「そうですね。私なら即通報しますね」
「要らないよ。もういいです。別の神社で探します」
「そうですかー。お役に立てなくて残念です」
「役に立つ気があったことの方が驚きだよ。じゃあもう行くから」
「はい。行ってらっしゃいませ、ご主人様ー」
「メイド神社はもういいよ! しつこい!」
「そんな時にはこちらの業者お断りのお守りはいかがでしょうか。
しつこい悪徳業者を追い返す霊験あらたかなお守りですよ」
「それ一つ下さい」
「ありがとうございまーす」