ショートコント:魔法のランプ
(2005/2/2作)


魔人「でろでろでーん」
人間「わ、なんか出た」
魔人「あ、どうも、こんにちは」
人間「あ、はい。こんちは」
魔人「えっと、お初にお目にかかります、私こういう者です」
人間「名刺?」
魔人「株式会社魔法のランプ、営業三課の魔人と申します」
人間「営業!? ていうか会社なの!?」
魔人「はい、当社は歴史のある由緒正しい企業でございます」
人間「そ、そう」
魔人「ちなみに本社はトルコでございます」
人間「外資系なんだ」

魔人「さて、お客様」
人間「客…って俺のことか」
魔人「はい。それでは早速商品のご説明から入らせていただきますね」
人間「商品」
魔人「当社の商品は基本的に"願いを叶えるプラン"をご提案させて頂くものです」
人間「はあ」
魔人「しかしその中でもお客様のニーズによって自由に選択して頂けますよう、様々な種類のコースを用意してございます」
人間「はあ」
魔人「例えばこちらの"塵も積もれば山となるコース"ですと、なんと願い事が100個も叶えられます!」
人間「100個!? すごいじゃないですか」
魔人「ただ、願い事は特定の状態の時にしか効きません」
人間「特定の状態?」
魔人「はい。具体的にはバスに乗り遅れそうになった時」
人間「そんなの"そのバス待って"以外の願いはあり得ないじゃん!」
魔人「ご不満ですか」
人間「毎日バス通勤とかしてない限り100回も使わないよ」
魔人「それではこちらの"雨だれ石をも穿つコース"はいかがでしょう」
人間「それはどんなコースなんですか」
魔人「はい、願い事は10個までですが、内容に関して制約はございません」
人間「お、それいいじゃないですか」
魔人「ただ、実現するのに多少時間がかかります」
人間「時間?」
魔人「はい。例えば"100億円欲しい"と願ったとしましょう」
人間「はい」
魔人「すると、毎日1円ずつ手元に入ってきます」
人間「気が長すぎるよ! 100億日後はもうとっくに死んでる!」
魔人「ご不満ですか」
人間「全然多少じゃないだろ、その時間のかかり方は」

魔人「あー、ではこちらのコースはいかがでしょう。"羊頭狗肉コース"」
人間「名前から既に悪いイメージしかしてこないんですけど」
魔人「願い事が叶うには叶うんですが、騙されたような気になります」
人間「例えば?」
魔人「"女の人にモテたい"と願ったら、大量のおばあさんが…」
人間「もういいです。もっとまともなのないんですか」
魔人「仕方ありませんね…本来なら初めてのお客様にはご紹介しないのですが」
人間「え、二回目とかあるんですかコレ」
魔人「"ねじれた薪もまっすぐな焔をたてるコース"はいかがでしょうか」
人間「なんかあんまり馴染みのないことわざが出てきた」
魔人「願い事は一つだけになってしまいますが、どんな願いでも叶います」
人間「どんな願いでも?」
魔人「はい、どんなに無茶な願いでも、です」
人間「ほんとに? なんか裏があるんじゃないの?」
魔人「全て言葉通りでございます。それ以上も以下もございません」
人間「じゃあ例えば、"空を自由に飛びたい"とかもできる?」
魔人「ああ、残念ながらそれは不可能です」
人間「なんで」
魔人「"空を飛びたい"と"自由に飛びたい"、願い事が二つ混ざっているからです」
人間「細かっ」
魔人「言葉の選び方が難しいのです。ですから初めての方にはお勧めしておりません」
人間「そ、そうなんですか。…よし、じゃそれでお願いします」
魔人「"ねじれた薪もまっすぐな焔をたてるコース"でございますね。了解致しました」
人間「ええと、どんな願いにしようかな…」
魔人「はい、それでは願い事をどうぞ」
人間「じ、じゃあ、彼女がほしい!
魔人「了解致しました。少々お待ち下さい」
人間「うう、どきどきするなぁ。なんか絶対とんでもない人を連れて来られる気がする」
魔人「お待たせ致しました。さぁどうぞ」
人間「わぁ! 予想外に可愛い人だ!」
彼女「しくしく。しくしく」
人間「あれ。なんで泣いてるの」
彼女「ご、ごめんなさい。彼女でもなんでもなるから殺さないでっ。わぁぁぁん」
人間「…ちょ、ちょっと。どういうことだよこれ」
魔人「その辺にちょうど良い女性が歩いていらしたので、軽く脅して拉致して参りました
人間「ええー!?」



「ねじれた薪もまっすぐな焔をたてる」

意味:誤った原因や手段から正しい結果が生じること。もしくは、目的のためには手段を選ばないこと。