ショートコント:金の斧銀の斧
(2008/11/08作)


 ぼちゃーん。

「あっ、しまった。泉に斧を落としてしまった」
「ぽわわわーん」
「わっ。綺麗な女の人が出てきたぞ」
「おいーっす!」
「ええー。綺麗な女の人なのに、なんで挨拶が長さん」
「声が小さいもう一度ー! ウィリース!」
「遠い。ダジャレが遠い」
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか? 銀の斧ですか?」
「え。あ、いえ、私が落としたのは鉄の斧で…」
「それともこのエメラルドの斧ですか?」
「え」
「もしくはこの真珠の斧ですか? はたまたルビーの斧ですか?」
「鉄の斧です」
「アメジストの斧…」
「鉄です」
「サファイヤ…」
「鉄です」
「鉄の斧」
「鉄でs…くっ」
「ニヤリ」
「いや、というか何がしたいんですか」
「じゃ、そういうことで」
「えええー。せめて僕の斧返してくださいよ」
「ごめん。もうごちゃごちゃになっちゃってどれがどれだかわからない」
「うそん」
「あたしの部屋斧で溢れかえってるからさー」
「なんでそんなに斧があるんですか」
「ん? 趣味みたいな?」
「どんな趣味だよ」
「斧コレクター」
「かなり異端っすね」
「まぁ待ってれば時々上から落ちてくるし」
「全部落し物じゃないですか。返そうよ」
「うん。いい加減置き場所に困ったので返しに来ました」
「そんな理由!」
「全部上げるから持っていって。ほらほら、この斧とか面白いよ。ぶにょぶにょしてて」
「…気持ち悪い斧ですね」
「これなんか年代モノだよ。石斧」
「あなた一体何千年前から住んでるの」
「こっちは伝説の騎士が赤い悪魔と死闘を繰り広げたと言われる…」
「いや、もういいです。僕の鉄の斧だけ返してください」
「ちぇー。仕方ない、今度ゴミの日に出すか…」
「金とかルビーとかは高く売れそうですけどね」
「燃えないゴミでいいのかな。それとも粗大ゴミ?」
「さぁ…市役所に聞いてみたらどうですか」
「そっか。わかった。そうしてみるよ。ありがとう」
「いえ」
「じゃ、そういうことで」
「いやいや。僕の鉄の斧」
「あ、そうか。ちょっと待っててー」
「あ、はい。お手数かけてすみません」
「……」
「……」
「よいしょ。とりあえず第一陣ね」
「うわ。山ほど抱えて出てきた」
「その中にあなたのがあるかどうかチェックしてみてー。その間に追加持ってくるから」
「は、はぁ」
「……」
「…うーん、この中にはない、か」
「よいしょ。はい第二陣」
「あ、どうも。…あの、あとどれくらいあるんでしょう」
「えーと。んー、十往復以上は必要だと思う」
「どれだけ溜め込んでるの!」
「いやもー大変よ? 斧のある生活」
「大変なら、もっとさっさと処分しましょうよ」
「朝起きたら枕元に斧」
「怖ぇぇぇ!」
「床は斧が散らばって手足の踏み場もないし」
「危ないから! せめて片付けて!」
「あ、でもお料理のときは結構重宝してるのよ?」
「斧で調理してるの!? 何その無駄な器用さ!?」
「刃のところで鉄板焼きすると美味しいよ?」
「うわぁ…あ、あった。僕の斧」
「あや。意外に早く見つかってよかったね」
「はい。えーと、お騒がせしました」
「いえいえ。丸く収まって良かったよ。チタンの斧いる?」
「結構です。じゃ、僕はこれで」
「はーい。ばいばーい。プラスチックのおn」
「要らないです」