ショートコント:ゴージャス殺人事件
(2005/11/22作)


「犯人は…お前だ!」
「!! …い、いい加減なことを言うな!」
「観念しろ。もう全ての謎は解けているんだ」
「な、何だと」
「今から一つ一つ暴いていってやるよ。お前の仕掛けたトリック全てをな!」
「ば、バカなことを…」
「まず最初の謎は消えた凶器についてだ。被害者は固い鈍器で撲殺されている」
「だが、そんなものは部屋のどこにも見つかりはしなかった。そうだろ?」
「ああ。だがそれは既に犯人によって処分された後だったからだ」
「処分だと?」
「犯人は、強力なガスバーナーで凶器を燃やしてしまったんだ」
「ハッ! どんなに強力なバーナー持ってしても、燃えカスが残る。現代の科学捜査が見落とすはずはない」
「ところが、燃えカスの残らない凶器があるんだよ」
「氷だと言いたいんだろ? しかし鑑定の結果で、鈍器はもっと固い金属か何かだと出ている!」
「氷じゃないさ…もちろん金属でもない。凶器は…ダイヤモンドだ!
「な…」
「あんたは特大のダイヤモンドを用意し、それで被害者を殴ったんだ!」
「……っ!」
「ダイヤモンドは炭素で出来ている。強力なバーナーで燃焼させれば全て二酸化炭素になるのさ!」
「…なるほど。凶器のことは分かった。ではこの密室の謎はどう説明する?」
「それも既にわかっているさ。確かにこの部屋は地下室、出入り口は一つしかない」
「ああ。そしてその入り口は、完璧に施錠された建物のど真ん中の床にある」
「そのとおり」
「そんな状態でどうやってこの部屋に出入り出来るというんだ!」
「簡単なことさ。あんたは強引に建物自体をどけたんだよ」
「な、何ぃ!?」
「不可能なことじゃない。大型クレーン車をレンタルし、建物全体を持ち上げればいいんだ」
「ば、バンガローならともかく、こんな体育館みたいにでかい施設がそんなクレーンごときで…」
「一台で持ち上がらないなら何十台も用意すればいいだけのことさ」
「ぐっ……だ、だが私には鉄壁のアリバイがある!」
「あんたは犯行のあった日、現場から1000kmも離れたA市にいたんだったな」
「だろう? 私が1時半と3時半にA市にいたことは既に実証済みだ」
「確かにその通り…だがあんたはそのわずか二時間の間に往復2000kmの距離を移動したんだ」
「ははは! 何を言うのかと思えば! そんなことは不可能だ!」
「いや、可能さ」
「なんだと…?」
「音速飛行機コンコルドをチャーターすればな!」
「!!!」
「コンコルドはおよそマッハ2で飛ぶことが出来る。マッハ1は時速約1225km」
「……」
「往復2000kmの距離なら一時間で航行可能だ。二時間も余裕があればじゅうぶん犯行は行える!」
「…し、証拠はあるのか! 私がやったという証拠は!」
「もちろんあるさ」
「何っ!?」
「被害者は死ぬ直前にダイイングメッセージを残していたんだ」
「なんだと!?」
1978年物のロマネ・コンティでな!」
「なんてこった!」
「さぁ、大人しく罪を認めろ!」
「…くっ……もはやこれまでか… そう…俺が殺したんだよ…」
「最後までどうしてもわからなかったのはあんたの動機だ。一体どうして?」
「仕方…なかったんだ…」
「仕方なかった?」
「俺は…俺は、あいつに100万円の借金があったんだよ!
「……」
「……」
「…なぁ」
「ん?」
「素直に返した方が安くついたんじゃない?」
「…なんてこった!」