ショートコント:クリエイターズ・パープレキシティ
(2005/10/21作)



「あ、どうも。お忙しいところすみません、先生」
「ああ、いやいや。そう固くならないで良いよ」
「ありがとうございます」
「それじゃ早速仕事の話に行こうか」
「はい。実は今度我が社が出す新作ゲームのテーマソングを是非先生にご依頼したいと思いまして」
「え。なに。ゲーム?」
「はい。多数のヒットを飛ばしている売れっ子作曲家の先生と見込んでのお願いです」
「えっと、でも僕普通の歌手の曲しか手がけたことないんだけど」
「大丈夫です。先生ほどの才能と実力であれば楽勝ですよ!」
「いや、でも、ゲームの音楽となるといろいろ話が違ってくるでしょ?」
「先生。ゲームの音楽を馬鹿にしてはいけませんよ」
「そうなの?」
「はい。J-POPとのタイアップも珍しくありませんし、質的にも全く引けをとりません」
「ううむ」
「むしろ歌手のネームバリューが利かない分、より曲そのものの出来が問われるのです」
「そうか…そういわれるとチャレンジ魂をくすぐられるな」
「頼りにしていますよ、先生!」
「ははは。まぁ頑張ってみるよ。それで、何ていうゲームなんだい?」
「はい。"エロエロ物語2 -ロリ巨乳陵辱編-"です」
「…は?」
「"エロエロ物語2 -ロリ巨乳陵辱編-"です」
「えーと。あー、あのー…、え、えっちなゲーム?」
「はい。えっちなゲームです。前作"エロエロ物語"が好評だったので今回第二弾を発売することに」
「そ、そう…えーと、もう一度確認したいんだけど」
「はい。なんでしょう」
「えっちなゲームの主題歌を、ヒットメーカーの僕に作れと、こういうこと?」
「はい、そのとおりです! さすが呑み込みがお早くいらっしゃる!」
「そんなとこ褒められても困るし。嫌だよ僕」
「えっ、何故でしょう。タイトルに何かご不満でも?」
「いや、タイトルもちょっとどうかとは思うけど、それ以前にえっちなゲームだなんて聞いてないし」
「先生。失礼ですが、それは見識が狭いというものですよ」
「え?」
「最近のえっちなゲームというのはえっちな要素以上に感動的なシナリオが重視されているのです」
「へぇ」
「クリアするのに50時間とかかる大作もあります。下手な小説よりよっぽど作りこまれていますよ」
「ふぅむ。そんなにすごいのかい」
「はい、エロゲー発祥でアニメ化漫画化小説化とメディア展開しているものも珍しくありません」
「そうか…確かにそれは僕の了見が狭かったようだ」
「わかっていただけましたか」
「うむ。で、今回のソフトはどういう物語なのかね」
「はい。まず主人公はユーザが感情移入しやすいようどこにでもいる平凡な男に設定しました」
「なるほど」
「20才、軽業師
「どこにでもいない! かなり特殊な職業だからそれ!」
「彼が曲がり角でパンを咥えた女子高生とぶつかるところから物語が始まります」
「…あー、王道だね」
「尻餅をつき、咥えていたパン一斤を落としてしまう女子高生」
「咥えすぎだよ! どんだけパン好きなんだよ!」
「後日、イベントで軽業を披露している時に二人は再会します」
「ふむ」
「梯子のてっぺんでポーズを決めた時、近くのマンションの3階の部屋の中に彼女が」
「嫌な再会シーンだなぁ」
「それから二人は幾度となく街中で偶然に出会い、少しずつ親交を深めていきます」
「まぁ、一目惚れとかの安易な展開にしないだけマシかな」
「校舎の窓越しに、ファッションビルの窓越しに、東京タワー展望室の窓越しに」
「全部窓越しなんだ。あと東京タワーはさすがに無理があると思う」
「恋心が募った主人公、ついに告白を決行!」
「ほう」
「女子トイレの窓越しに指輪をプレゼント」
「もっと場所選べよ。通報されるぞそれ」
「その後なんだかんだあって彼らはカザフスタンに亡命し、幸せに暮らすというストーリーです」
「待て待て待て。なんで亡命してんの」
「それはゲームをプレイしてのお楽しみということで」
「お楽しみどころか不安以外感じないんだけど」
「では、別の女の子のシナリオもご説明しましょうか」
「そっちは大丈夫なんだろうねぇ」
「お任せください。こちらは非常にピュアなラブストーリーです」
「ほほう」
「こっちのヒロインは主人公に密かで一途な恋心を抱く少女という設定です」
「なるほど。それは期待できそうだ」
「主人公が風呂上りにビールを一杯やりつつベッドに腰掛けてくつろいでいるんです」
「うんうん」
「ふと鏡を見ると、自分が腰掛けているベッドの下に斧を持った少女の姿が…
「怖いよ! 一途過ぎてストーカーになってるじゃん!」
「切ないですよね。気持ちをぶつけようとすればするほど逃げられてしまうこのジレンマ」
「逃げなきゃ殺されるだろ」
「ちなみにラストは、二人でカザフスタンへ亡命します」
「また亡命!? なんで!? 何がどうなったら斧持ったストーカーと亡命するわけ!?」
「だめですか。別のシナリオ行きましょうか」
「お願いしますよほんとにもう」
「お任せください。今度は最近流行のツンデレです」
「ツンデレ?」
「はい。普段はツンツンしているのに二人きりになるとデレッとなるキャラのことです」
「へぇ」
「彼女は将来のトップスターを夢見るストリートミュージシャン」
「おお、いいね」
「主人公は、ピエロのメイクをして太鼓と鐘とラッパを演奏しながら町を練り歩く彼女と出会う」
「チンドン屋だよね? ストリートミュージシャンっていうよりチンドン屋だよね?」
「二人は芸術を極めるという共通の目標を持ち、親密になっていきます」
「ごめん。それどこがツンデレ?」
「仕事中は髪の毛をツンツンに立てていますが、二人きりになったらそれを落としてデレッと」
「髪型!? 髪型だけの問題!?」
「ちなみにラストは20人でカザフスタンに亡命します」
「また亡命…ってちょっと待て、残りの18人は誰だ
「いかがでしょう」
「いかがも何も…さっぱりストーリーがつかめないし…どこが陵辱編なのかもわからないし…」
「では先生のイメージした楽曲で結構ですから」
「うーん、そう? じゃあ、即席だけどこんな感じでどうかな」


♪じゃんじゃらじゃじゃじゃんじゃらららーん(前奏)

君と会った瞬間 僕に衝撃が走ったよ
僕の心の内 ああ君に今すぐ伝えたい
だけどできない 僕は意気地なしさ
君の瞳を見ると 言葉が出なくなる

今思い起こせば あの時の自分が小さい人間に思える
ほんの少しの勇気で 全てが変わったんだよ

ああ 今は幸せさ 僕ら
さあ 未来へ続く扉を開けて
二人の旅が始まる



「うーん…」
「何かまずいところでもあったかい」
「そうですね…もう少しインパクトが欲しいように思われます」
「インパクト?」
「はい。ドラマと違ってゲームの主題歌は毎回毎回聴くわけではありません」
「ふむ」
「ですから、一回聴いただけでて忘れられなくなるようなインパクトが欲しいのです」
「なるほど」
「まず、合間合間で女性コーラスによる合いの手を入れましょう」
「合いの手」
「はい。歌詞に応える形にするとストーリー性が深まるかと思います」
「なるほど」
「それと、もっと英語を多くしたほうが良いかと思います」
「え、なんで」
「ぱっと見た字面がひらがなと漢字ばかりだと地味に映ります」
「うーん、そうか…」
「それから一人称や二人称はカタカナで書いた方がお茶目に見えますね」
「…お茶目?」
「できるだけ親しみやすい表現にするのも重要です」
「ふむ」
「あとは…語尾を変化させてみましょうか」
「ご、語尾?」
「はい。一種の記号化です。それだけでグッとユーザに親近感が沸くはずです」
「そ、そうなのか…」
「歌詞を書き直してみましょう。…よし、じゃあこれで歌ってみてもらえますか」
「うん。わかった」


♪じゃんじゃらじゃじゃじゃんじゃらららーん(前奏)

キミと会った瞬間 ボクにインパクトが走ったにょ (実はスタンガン)
ボクのハートの内 ああキミに今すぐ伝えたいにゃん (時と場合を考えろ)
だけどできない ボクは弱虫さんなのデス (さっさと帰れチキン野郎)
キミのお目目を見ると 言葉が出なくなっちゃう (実は対人恐怖症)

今思い起こせば あの時のボクがちっぽけに思えるぽ (アソコもちっぽけ)(きゃー)
ほんのちょっとのガッツで みーんな変わったんだにょ (顔も整形)(お前誰ー)

ああ 今はハッピーにゃん ボクら (クスリで飛んじゃった)
さあ 未来へ続くドアを開けて (ネコをなぎ倒し)(マッピー、マッピー)
二人の旅にLet's GO!(カザフスタンへ)(亡命、亡命ー)



「…結局また亡命すんのかい」
「素晴らしい! さすが先生!! これで今回もバカ売れ間違いナシです!」
「そ、そう………かなぁ…」
「ありがとうございました! 早速社に帰って社長に歌わせます!
「ちょっと待て」