ショートコント:193
(2005/10/27作)
「将軍様、一休、只今参上いたしました」
「おお、待っておったぞ一休」
「何用でございましょうか」
「ふむ、その前に一つ聞きたい。屋敷の前の橋に看板を立てておいたはずだが読んだか?」
「はい。"このはしわたるべからず"と書かれてありました」
「うむ。ならば一休、お前はどうやって川を渡ったのじゃ?」
「近場にあった木を切り倒して、突貫でもう一つ橋を作りました」
「えええー! いやいや、端っこを渡らずに真ん中をとかそういうのは?」
「本当に橋が腐ってたら嫌じゃないですか」
「いや、うん、まぁそうなんだけど。ええー。なんか考えてたのと違うー」
「はぁ。そう言われましても」
「いや、だって。ええー。本当にとんちで有名な一休さん?」
「あーそれ多分聞き違いかと」
「聞き違い?」
「はい。私はトンカチで有名な一休です」
「と、トンカチ!?」
「はい。生まれが大工の息子なもので」
「だから橋を作ったのか…えー。なんか納得行かないー」
「はぁ。すみません。で御用はなんだったんでしょうか」
「いや、とんちだったら無理難題吹っかけようかと思ったんだけど……トンカチかぁ…」
「トンカチを馬鹿にしてもらっては困ります」
「いや、別に馬鹿にしてるわけじゃないけど」
「私はこのトンカチで数々の難題を切り抜けてきたのです」
「はぁ。んじゃちょっとやってみる?」
「なんなりと」
「コホン。実はこの屏風のことなのだが」
「立派な虎が描かれていますね」
「うむ。しかしこの虎、実は夜な夜な屏風を抜け出して暴れよるのじゃ」
「え」
「わしもほとほと手を焼いておる。だからそちにこいつを捕まえて欲しい」
「あのー、将軍様」
「なんじゃ」
「漫画の読みすぎじゃないですか。フィクションと現実がごっちゃになってませんか」
「可哀想な目で見るなよ! 謎かけしてるんだから空気読めよ!」
「あーあー。謎かけですか。まさか将軍様本気で逝っちゃったかと思いましたよ」
「失礼なヤツだな」
「はぁ、はぁ。つまり屏風の虎をなんとかしてほしいと」
「そうじゃ」
「わかりました。ではこのトンカチで」
「ふむ」
「うらぁぁぁぁーーー!!(ゴスッ)」
「うわーーー!! 屏風に穴がーーー!!」
「ふー。虎の眉間をぶち破りましたからもう大丈夫。即死ですよ」
「いや、できれば屏風自体は傷つけないで欲しかったんだけど…」
「それを先に言ってください」
「言ったらどうしてた?」
「んー、屏風ごと檻に入れとけば良いんじゃないですかね?」
「いや、それだと屏風飾れないし」
「じゃあいっそ上から別の絵に描き直しちゃいましょうよ。坊主の絵描きましょか」
「嫌だよ! 虎の屏風を飾りたいんだから」
「でも虎捕まえちゃったら何の絵も描かれていない屏風になっちゃいますよ」
「う。それはまぁ、そうだが」
「というわけでやっぱりうらぁぁぁぁーーー!!(ばきっ)」
「うわーーー!! 屏風が折れたーーー!!」
「ふう。さすがにここまでやれば安心ですね!」
「…難題を切り抜けてきた、って全部力押しなんじゃ…」
「失礼な」
「じゃあ今までどんな難題をどう切り抜けてきたのか申してみろ」
「そうですね。例えばこないだ和尚様に"仏壇のろうそくを消してきてくれ"と言われまして」
「ふむ」
「ところが仏壇のろうそくというのが高い位置にあるんですね。私では背が届かないのです」
「ほう」
「ジャンプしてなんとか吹き消したんですが、そう報告したら和尚様が怒りまして」
「ふむふむ」
「"仏様に息を吹きかけるとは何事か!"とこういうのです」
「なるほど」
「そこで私はトンカチを働かせまして」
「ふむ」
「仏壇を叩き壊しました」
「えええー!」
「今では仏像から何から全て床においていますので、ろうそくも簡単に消せます」
「いやいやいや! もっと罰当たりなことになってるからそれ!」
「そうそう、以前こんなこともありました」
「はぁ」
「和尚様が"この瓶の中身は毒だから決して食べないように"と言って法事に行きました」
「うむ」
「ですが、私は和尚様がこっそりそれを食べているのを見たことがありまして」
「なんと」
「試しにその辺にいた犬に食わせてみましたが、なんともありませんでした」
「ふむ。毒ではなかったのだな」
「はい。本当は水あめだったんです」
「なるほど。和尚が独り占めをしていたのか」
「小坊主全員でつい一口、もう一口と食べているうちに結局全部食べてしまいました」
「ふむ、それではごまかしが効かぬな」
「そこで私はトンカチを働かせまして」
「ほほう」
「小坊主の珍念を脅して罪を一人で被ってもらいました」
「えええー!」
「おかげで私や他の小坊主たちは特にお咎めもなく」
「いやいやいや、その珍念はどうなったのよ?」
「それはその…トンカチで…いえ、やっぱりなんでもないです」
「……聞かないほうがよさそうだな」
「そういえば以前こんなこともありました」
「もう何か聞くたんびに気が重くなって来るんだが」
「隣山の和尚様とうちの和尚様が喧嘩をいたしまして」
「ふむ」
「それでどういう話の流れか、隣山の和尚が私に"日本一長い文字を書いてみせろ"と」
「ほう」
「そこで私はトンカチを働かせまして」
「あれだな、長ーい"し"の文字を書くという…」
「隣山の和尚をトンカチで殴りました」
「えええー!」
「見事記憶喪失になりまして、喧嘩したことさえ忘れて帰っていきました」
「見事、とかそういうレベルの問題じゃないと思う」
「そうですか」
「結局、やっぱりどれも力押しではないか」
「そうとも言います」
「そうとしか言えないから。もうよい、下がってよいぞ」
「はい。それでは失礼します」
「うむ」
「…あのー」
「なんじゃ」
「実はこちらに来る時に作った橋、突貫だったので渡ったらすぐに壊れてしまいまして」
「だったら普通に元からある橋を渡ればいいではないか」
「えー、でもあの橋は"このはしわたるべからず"って」
「無視してよい。あれは謎かけの為にわしが書かせたものじゃ。橋には何の問題もない」
「そうですか! いや安心しました」
「全く心配しすぎじゃ。あんな緩やかな川ぐらい泳いででも渡れように」
「恥ずかしながら私カナヅチなもので」