ショートコント:ふしぎちゃんと運転免許
(2015/03/04作)

「れーじくん、いよいよだよ」
「何が?」
「いよいよ明日なんだよ」
「だから何が?」
「明日が」
「うん、そうだね」
「違うんだよ。そうなんだけどそうじゃないんだよ」
「落ち着いて。いつにも増して意味不明になってるから」
「分かった。落ち着く。あたし、お茶、飲む」
「ふしぎちゃん、なんかカタコトだよ? 大丈夫?」
「ふぅ。お茶飲んだら落ち着いたよ。太陽のマテ茶」
「あー。うーん。CM観る限り、落ち着かなさそうダナー」
「…あれ? あたし何を騒いでたんだっけ?」
「落ち着きすぎだよ。なんかいよいよ明日がどうとか」
「そう! 明日だよ! 明日試験なんだよ!」
「試験? 大学の試験期間はもう少し先じゃなかったっけ?」
「大学じゃないよ」
「何の試験?」
「運転免許」
「やめとき」
「即却下!?」
「悪いこと言わんから、やめとき」
「なんで似非関西弁…」
「いや… ふしぎちゃんが運転って、もう不安どころか脅威しかないしさ」
「いつもオブラートに包んで諭すタイプのれーじくんが辛辣!?」
「いやホントまじで。世界の平和のためにやめてください、ふしぎさん」
「そんなスケールでの心配なの!?」
「だってふしぎさん、触った機械を軒並み壊すじゃないですか…」
「なんか余所余所しくなってない!? 出会った頃みたいだよ!?」
「どうしてもというのなら、刺し違えてでも…!!」
「待って。待ってれーじくん。落ち着いて。マテ茶飲んで」
「マテ茶はいいよ。ごめん、取り乱した」
「ああ、やっとれーじくんが帰ってきた」
「いや、ていうか… え、本当に? 運転するの?」
「もちろんだよ! 前々から教習所に通ってたんだから」
「知らなかった…」
「驚かそうと思って黙ってたからね」
「なんでそれをこのタイミングでバラしたんだろう」
「しまった。うっかり口を滑らせた」
「自分から話題振ってきといて、滑るも何も」
「バーボンをカウンターの端のお客様に届ける感じで滑らせた」
「無駄にダンディーだね。てか、ふしぎちゃんが車を操作するのか…怖いな…」
「あまりの信用のなさにびっくりです」
「だってふしぎちゃんが原因で壊れた僕のパソコン、2桁超えてるからね?」
「反省してます」
「まぁいいけど」
「反省の舞!」
「全然反省していませんね、ふしぎさん」
「ごめん、その出会った頃の関係に戻るの本当に心に来るからやめて」
「それにしても…うーん、運転免許かぁ…」
「そうだよ。今、若干忘れてたけど、明日いよいよ試験なんだよ」
「本当に大丈夫なのかな…」
「一応いっぱい練習はしたよ! …ゲーセンで」
「カーレースだよねそれ。実際の運転を同様に考えちゃだめだよ」
「かなりやり込んだ。クレイジータクシー」
「またよりによって特に参考にしちゃいけないタイプのゲームを…」
「それでも不安なものは不安だよ」
「まぁ今更焦っても仕方ないし、落ち着いて復習でもしたら?」
「そうだね。じゃあちょっと練習してみるからチェックしてて」
「中学生に頼むことかな、それ… まぁわかる範囲で見てみるけど」
「よーし、じゃあ車に乗り込むところからね」
「へー、そこからスタートするんだね」
「前方良し! 後方良し!」
「ああ、安全確認しなくちゃいけないのか」
「タイヤの下良し! ドアの鍵穴良し!」
「爆発物でも仕掛けられてるの?」
「乗り込みます! ガチャ、バタン。あ、半ドア。ガチャ、バタン」
「細かいな」
「シートの位置良し! バックミラーの角度良し! ハンドルの手触り良し!」
「手触り?」
「コンディション・オールグリーン! メインエンジン・フルスロットル!」
「戦闘機でも離陸させるつもりか」
「ファイナルフュージョン! プログラム…ドラァァァァァァイブ!! ばきーん!」
「それ実車でやったら、クラクションが鳴るか、下手するとエアバッグ飛び出るよ」
「ふぅ。じゃエンジンかけまーす」
「まだかけてなかったんだ!?」
「シートベルトも締めたし、エンジンも無事かかりました!」
「はい」
「あ、FMかけていい?」
「試験中はやめようね」
「はい。では発進します」
「よろしくお願いします」
「えっと、ブレーキ踏みながらクラッチを半分だけにして…」
「うんうん」
「サイドブレーキを解除しながらギアをローに…」
「お、意外とまとも…」
「みりんを小さじ三杯入れてからブイヨンを…」
「…じゃなくなったー。帰っておいで、ふしぎちゃーん」
「法定速度を守って走るよー」
「はーい」
「ここは秒速40kmですよー」
「マッハ超えてますよー」
「カーブではスピードを落とさないとね」
「安全運転だね」
「すぴーどとやらをポイして車体を軽くするよー」
「そういうことじゃないよー」
「S字カーブだよ、れーじくん!」
「ああ、慎重に行かないとね」
「ジャンプでショートカットするよー」
「マリオカートじゃないよー」
「縦列駐車。強敵だね」
「頑張って」
「うーん。どうやって車を縦に起こしたらいいんだろう」
「縦って地面に垂直な方向のことじゃないよー」
「踏切の手前では一時停止!」
「電車が来ていないか確認しないとね」
「地雷が埋まっていないか注意しながら進むよー」
「ふしぎちゃんは一体何と戦っているのですかー」
「あっ、交差点で信号が黄色に!」
「強引に進まないで、次の青まで一旦停止すべきだね」
「バーン」
「何撃ってるの!?」
「ペイント弾」
「ダメだよ! 強引に青にしちゃ!」
「なら信号の配線を変えて常に青になるように…」
「大人しく待ってた方が早いよ!」
「あっ、歩行者用信号が点滅してる」
「ほら。もうすぐ青に変わるから、ね」
「あれは…S…S…S…」
「モールス信号じゃないよー」
「そして最大の難関、坂道発進!」
「ああ、加減が難しいらしいね」
「慎重に…慎重にアクセルを…」
「……」
「フルスロットル!」
「やると思ったー」
「カタパルト発進だよ! ドヤァ」
「なんで誇らしげなのか解らない」
「目的地で停止! 降りる時も最後まで気を緩めちゃダメなんだよ」
「そうだね」
「サイドブレーキと緊急脱出用のレバーを間違えないように注意しないとね!」
「うん、戦闘機に乗ってる時ならねー」
「ドアを開ける時も、周囲を見て人にぶつかるかどうか確認!」
「おお。それは大事だね」
「よしきた、今だ! バーン」
「ぶつけたよね今。しかもわざとぶつけたよね」
「ふう。こんなもんかな。復習したら落ち着いてきたよ」
「逆に僕は不安が増したよ…」
「よーし、頑張るぞー。待ってろ、大型特殊免許!」
「えっ」