ショートコント:時をかけるふしぎちゃん
(2019/05/29作)

「れーじくん、お待たせー。待ったー?」
「待ったよ! めちゃくちゃ待ったよ!
「…そこは『大丈夫、全然待ってないよ』って言うのが大人の対応なんじゃないかなぁ…」
「五時間遅刻しといて、大人の対応を期待する方がおかしい」
「はい。ごめんなさい」
「えぇと。予定してた映画の上映時刻が大幅に変わるから、少し時間があるね」
「パフェ食べたい」
「切り替え早いな。反省の色が全く見えない。まぁそこの喫茶店に入ろうか」
「わぁーい。やったぁー。れーじくん、話がわっかるぅー。いぇーい」
「なんか本気でムカついてきた」
「ごめんなさい。遅刻のお詫びにごちします」
「よろしい。んー。じゃあ僕はアイスティーで」
「あたしはフルーツあんみつでお願いしまーす」
「パフェはどこへ行った」
「気が変わったんだよ。女心と山の天気は暴風雨って言うでしょ」
「言わないよ。なんで常に大荒れなんだよ。どこの山だよ」
「流れるような三段ツッコミ」
「で? 遅刻の理由は?」
「なぁに、大したことじゃないさ」
「遅刻した分際が言うセリフじゃない」
「実はこないだタイムリープ能力に目覚めたんだけどね、朝起きたら驚いたことに…」
「待って待って待って」
「はい」
「今さらっと衝撃発言が飛び出したよね? 少なくとも朝のことより驚くべきだよ?」
「え? 暴風雨のこと?」
「なんでそこまで戻るの。タイムリープに目覚めたとか…」
「あ、うん。なんか。できた」
「そんな軽いノリでできることじゃないでしょ!?」
「そうなの? 最近の漫画とかゲームとかじゃよく使われるネタじゃん?」
「漫画とかゲームとかだからだよ。現実でそんなものぽんぽん使われてたまるか」
「そんなこと言われても。実際、さっきも使ったし」
「え、いつ?」
「パフェ食べるのやめてフルーツあんみつにした時」
「そこ!?」
「パフェが美味しかったんだよ」
「美味しくなかったから変えたならまだわかるけど、美味しかったから?」
「美味しかったから、もう一杯食べたくなったんだよ」
「えっ」
「だから食べる前に時間を戻して、もう一回堪能した」
「うわぁ…能力の使い方は贅沢な癖に、やってることがケチくさい…」
「八杯目でさすがに気持ち悪くなってきちゃって」
「パフェだけで何回時間戻してるんだよ!」
「さっぱりしたものが食べたくなったのでフルーツあんみつを頼んだのです」
「…僕は最後だけ切り出して見たから、突然心変わりしたように見えたわけか」
「ね、暴風雨でしょ」
「違う。てゆーか、そんなに能力を乱発して大丈夫なの?」
「何が?」
「何かを代償にしてるとか、回数制限があるとか、そういうのはないの?」
「うーん。わかんない。そのうち消えるかも」
「アバウトだなぁ」
「あたしが」
「ギャグのつもりかも知れないけど、能力が能力だけにシャレにならない」

「まぁでも特に目的があるわけじゃないし、思いついた時に使っとこうかなって」
「ふしぎちゃんらしいね…まぁふしぎちゃんなら変なことには使わないだろうけど」
「女湯を覗いた後に時間を戻せば捕まらないね!」
「ふしぎちゃんは別に覗かなくても普通に入れるでしょ」
「じゃあ、れーじくんを女湯に連れ込めば、れーじくんがパラダイスに!」
「時間戻したら僕の記憶もリセットされるから意味ないじゃん」
「ちっ。タイムリープ能力、使えねーな」
「ふしぎちゃんの思いつく『変なこと』の限界はその程度なんだね」
「あっ、いいこと思いついた!」
「何?」
「ゲームやって失敗するたびに時間を巻き戻せば、セルフTASができるよ!」
「秒単位でタイムリープするの、死ぬほど面倒くさそう」
「甘いねれーじくん」
「何が」
「フレーム単位だよ」
「もっと無理でしょ」
「ですよね」
「…なんかふしぎちゃんと話してたら、本当に大したことじゃない気がしてきた」
「だからそう言ってるじゃん」
「うん。もういいや。じゃ、遅刻の理由に話を戻そうか」
「忘れていなかったか」
「忘れていませんね。で、朝起きたら何だって?」
「朝起きたら、驚いたことに明日だったんだよ」
「は?」
「明日の朝だったの。まさか丸一日寝過ごすとは思わなかった」
「えぇ…夜更かしでもした?」
「ううん、そんなことないよ。ただ、最近妙に眠い気はする」
「そうなの? 大丈夫?」
「もしかしたら、さっきれーじくんが言ってたタイムリープの代償かもしれない」
「ああ、知らないうちに体力を消費してたってことか。なるほど、ありうるね」
「だよね。やっぱり能力の使用は控えた方が良いのかな」
「うーん。いざって時に使えなくなると困るだろうし、程々にしとくべきかもね」
「そっか。うん。そうするよ。このあんみつも五杯までにしとく」
「もうそんなに繰り返してたの!? どんだけ甘味を堪能してるんだよ!」
「いい加減甘いのに飽きてきたから、次のターンは豚キムチにするよ」
「やめて! 次のターンの僕がとんでもない心変わりを目撃しちゃう!」
「暴風雨だね」
「ここへ来てその例えがしっくり来た。てか能力の使用を控えようって話だったでしょ」
「そうだった。また眠くなっちゃうとこだった」
「まぁでも、うん。そうか。それでタイムリープして明日から戻ってきたんだね」
「そういうことです」
「なるほどなぁ……っていや、ちょっと待って」
「うん?」
「それでなんで遅刻するの。今日の、約束に間に合う時間に戻ってきたんじゃないの?」
「それじゃ駄目だよ。その時間、あたし寝てるじゃん」
「あ、寝てる最中に戻ったら起きられないのか。じゃあ昨日の晩に戻ったの?」
「うん。それで約束の時間に起きられるように目覚ましをかけた」
「うん」
「実際には目覚ましが鳴る一時間くらい前に起きられた」
「そうなんだ」
「時間が余ったからちょっとゲームした」
「うん。…うん?」
「気が付いたら五時間経ってた」
「ただのダメな奴じゃん! というかそここそ時間戻せよ!」