ショートコント:ふしぎちゃんと物語
(2007/01/22作)


「ねぇ、れーじくんは桃太郎のお話の中でどのシーンが好き?」
「えー、桃太郎? そうだなぁ。お腰につけた吉備団子を犬猿雉がもらうところかな」
「あたしは『日本一』って書かれた旗を持たされて桃太郎が困惑するところ」
「そんな描写どこにもないよ、ふしぎちゃん」
「あれ?」
「まぁ確かにそんなもの持たされても困るだろうけどさ」
「じゃさじゃさ、浦島太郎だったらどのシーンが好き?」
「そうだなぁ。亀を助けるところかな」
「あたしは乙姫様が浦島太郎に玉手箱を渡す瞬間の薄ら笑いが好き!」
「黒いよ! めちゃくちゃ企んでるじゃない」
「じゃあ、マッチ売りの少女だったら?」
「えー。急に世界に広がったね。うーん、マッチを擦っておばあさんの幻が見えるところかな」
「あたしはマッチを擦る瞬間に少女が浮かべる薄ら笑いが好き!」
「黒いよ! なんか放火しそうだよ」
「じゃあねー、シンデレラだったら?」
「んー、12時になってお城から逃げ出す時にガラスの靴を落としていくところ?」
「あたしは王子様の持ってきたガラスの靴に足がぴったりはまった瞬間のシンデレラの薄ら笑いが好き!」
「黒いよ! 王子様、シンデレラの策略に嵌ってるよ」
「じゃ次はアルプスの少女ハイジ!」
「ええー、今度はアニメ? えーと、クララが立ったところとか」
「あたしはロッテンマイヤーさんの薄ら笑い」
「さっきから薄ら笑い好きだね、ふしぎちゃん。しかもロッテンマイヤーさんは特に条件ないんだ」
「ドラゴンボールだったら?」
「だんだん最近っぽくなってきたね。どうせふしぎちゃんはフリーザの薄ら笑い辺りなんでしょ?」
「違うよ! 失礼な」
「あ、違うんだ。ごめん」
「フリーザ様の薄ら笑いだよ」
「様!? 『失礼な』ってそっち!?」
「んー、じゃあ原点に帰って、かぐや姫だったらどのシーンが好き?」
「かぐや姫かぁ。おじいさんが竹から女の子を見つけるところかな、やっぱ」
「あ、あたしと似てるね」
「そうなんだ」
「うん、あたしもおじいさんが竹から女の子の死体を見つけるとこ」
「いやいやいや! かぐや姫死んじゃダメだから!」
「ね、ね、それじゃ金太郎は?」
「熊と相撲をとるとこ?」
「あれ、そこなの。それはあたしと全然違うなぁ」
「そうなんだ。ふしぎちゃんはどこ?」
「金太郎が金から生まれるとこ」
「生まれないから!」
「一寸法師だったら?」
「うーん、鬼の身体の中に入って大暴れするところかな」
「お姫様の振った打ち出の小槌にうっかり潰されるところ」
「潰されません!」
「笠地蔵」
「お地蔵様が宝物を置いていってくれる所」
「行きと帰りでお地蔵様の数が変わってた所」
「怖いよ!」
「花咲か爺さん」
「枯れ木に灰を撒いたら桜が満開になった所」
「その桜から夜な夜なポチの声が聞こえる所」
「めちゃくちゃ怖いよ!」
「なんせ桜だからね。桜には木下さんの死体が埋まってるって言うし」
「助詞の場所を間違えたせいで死体の身元が特定されちゃったよ」
「春には桜並木にポチが生るよ」
「ものすごく嫌な画だね…」
「どう? 参考になった?」
「いや、まぁその話の好きな所をピックアップすればいいって言う理屈は判るよ」
「そうそう! それが読書感想文のコツだよ。これで宿題も完璧だね!」
「うん、頑張って書いてみるよ。ありがとう」
「どういたましてっ」
「でもふしぎちゃんが読書感想文を書いた時は、どんなこと書いてたのかすっごく気になるよ」
「あたしの時は芥川龍ちゃんの『蜘蛛の糸』だったなぁ」
「なんて書いたの?」
「蜘蛛の糸が切れた瞬間のお釈迦様の薄ら笑いが好きって書いた」
「黒いよ! お釈迦様なのに!」