ショートコント:ふしぎちゃんとオノマトペ
(2013/08/01作)

「ねぇねぇ、れーじくん」
「どうしたの、ふしぎちゃん」
「この間テレビでリズムに乗って擬音を答えるゲームをやってたんだけど」
「ああ。『車』って言われたら『ブーブーブー』って答えるやつね」
「それそれ。それってさ、ゲームとして成り立つのかな」
「どういうこと?」
「だって擬音なんて、感じ方は人それぞれでしょ。何て答えようが正解じゃない?」
「ああ、なるほど。そういうことね」
「さっきの『車』だって、別に『ブロロロキキーッガシャーン』でも間違ってないでしょ」
「間違ってないけど、事故起きてるねそれ」
「『パスッ、パスッ、ブロンブロン……』」
「エンストしたね」
「『ガッ、バターン!』」
「分かんない。何やったの」
「ガソリン注入口開けようとして、間違えて座席を倒すレバー引いた」
「それを分かれというのはさすがに無茶」
「とにかく擬音に間違いなんてないんだよ」
「感覚と表現の齟齬は、確かに個人差があって然るべきだもんね」
「ごめん、何言ってるかわかんない」
「あーうん、『感じ方は人それぞれ』を多少難しく言っただけだから気にしないで」
「そう。わかった。あ、というかそれも同じことだよね」
「うん?」
「私が『感じ方が人それぞれ』って言うのと同じ内容を、れーじくんは
 『感覚と表現のそごうは高島屋に伊勢丹が大丸でイオンね』って言うんだね」
「無理やりな上に最後のイオンだけ浮いてるね」
「西友はどこ行ったの?」
「知らないよ」
「仲間外れは可哀想だよ」
「そう思うならイオンを外して入れてあげなよ」
「うんわかった。ってあれ、何の話だっけ」
「擬音でしょ」
「あーそうそう」
「まぁ確かに擬音をどう表現するかは個人の自由だけど、ゲームとしては
 他人に伝わる表現ができるかどうかの問題なんじゃないかな」
「なるほど。でもそれ難しいね。他人に伝わるかどうかなんて判らないよ」
「うーん、でも一般的によく言われるのはこれ、みたいなのがあるじゃない?」
「じゃあ例えば『風』は?」
「風? んーそうだなぁ、『ピューピュー』とか『そよそよ』とかかな」
「『ピープー』は?」
「童謡の歌詞だね。ありなんじゃない。北風限定っぽいけど」
「『びやうびやう』は?」
「古語か。それは伝わりづらそうだなぁ。相手次第じゃないかな」
『ボゴボゴボゴ、ボゴボゴボゴ』
「何それ」
「マイクで風の音を拾うとそんな感じになるよ」
「アウト」
「なんで!? 風の音じゃん!」
「それは『マイクで拾った風の音』です」
「ぐぬぬ。じゃあ『鶏』の擬音はどうなのよ」
「え、そりゃ『コケコッコー』なんじゃないの」
「『クックドゥードゥルドゥー』!」
「英語か。まぁそれはありかな」
「『コケーッ! クワックワックワックワッ…ココッ、コケーッ!』」
「もはや擬音じゃなくて物真似だね」
『貴様のトサカは何色だぁーっ!』
「誰だよ」
「じゃあ『ダチョウ倶楽部』の擬音は?」
「えっ」
「『ダチョウ倶楽部』の擬音」
「…なんか方向性がずれてきてないかな」
「そのうちあの番組でもそうなるよきっと」
「あー。確かになりそう」
「もっとも、なり始めたらあのコーナーも末期だけどね」
「お笑いには結構辛辣だよね、ふしぎちゃん」
「というわけで、『ダチョウ倶楽部』の擬音」
「えぇー…『やー!』とかかな」
「超初期だね」
「悪かったね」
「まだダチョウ倶楽部が全く面白くなかった時期のギャグだよ」
「お笑いには本当に辛辣だよね、ふしぎちゃん」
「照れるね」
「褒めてないからね。じゃあふしぎちゃんの回答は何さ」
『俺がやるよ、いや俺がやるよ、じゃあ俺がやるよ、どうぞどうぞどうぞ』
「長いよ! もう擬音でもなんでもないよ!」
「『殺す気かー! …すみません、取り乱しました』」
「ダチョウ倶楽部っていうか、もはや竜ちゃんだねそれは」
「『ザ・たっち』の擬音」
「えー、『ちょっとちょっとちょっと』と『幽体離脱ー』くらいしか思いつかない」
『おすぎです! ピーコです!』
「いや、もうそれおすぎとピーコの擬音になっちゃってるから」
「『ダンディ坂野』の擬音」
「それはさすがに『ゲッツ』以外ないよね?」
「さて、そろそろ本題に戻ろうか、れーじくん」
「今のくだりは本題じゃなかったんですか。あとスルーしたね、ダンディ」
「例えば『招き猫』の擬音と言われたらどう答える?」
「ま、招き猫?」
「うん」
「えぇー…」
「カッチッカッチッ」
「えっ、時間制限!? …ま、『まねー、まねー』
「わ。何それ可愛い。ちょっと待って、スマホで動画撮るから」
「本当やめて。自分で言って今すっごい恥ずかしいから」
「またまたご謙遜を。ウィットに富んだ素晴らしい答えだったよ」
「えー」
『招く』と金運の『Money』を掛けるとか、さすがだね!」
「いや、ごめん、そこまでは考えてなかった」
「考えなくてもウィットに富んでしまうなんて、なんというウィッター!
「全く意味が解らない。ふしぎちゃんはどうなのさ、『招き猫』の擬音」
「んー、そうだね。『ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…』
「なんでそんなに威圧感を醸し出してるんだよ、招き猫」
「『ギラッ! …ゥナァァァァァ!!』」
「めちゃくちゃ威嚇してるし。全然招く気がない」
「『ぼぅおーん』」
「爆発したー!!」

「あたしのイメージはそんな感じだよ」
「…ふしぎちゃんの頭の中の招き猫は、兵器か何かですか」
「中に仕掛けられていたんだね」
「一般的な招き猫には爆弾なんて仕掛けられていないから」
「だったらこれはどうだ。『江戸幕府』の擬音
「また無茶ぶりを…うーん、『ドドン』って感じかな…」
「それはあれだね、その後に『上様の、おなーりー』って続く感じだね」
「あーそのイメージは合ってるかも」
「さらにその後『ドン、ドン、ドンドンドンドンドドドドドド。ドン』みたいな」
「そうそう、そんな感じそんな感じ」
『フルコンボだドン!』
「うん、それは違うね」
「『ぼぅおーん』」
「困ったら爆発オチに逃げるのは止めようね」
「手厳しいよ…」
「それで? ふしぎちゃん的な『江戸幕府』の擬音はどんなの?」
『えど! ばく! ふー!』
「あまりにストレートすぎて逆にびっくりした」
「擬音です」
「いや、江戸幕府って言っただけじゃん」
「擬音です」
「……」
「擬音です」
「…そう。いいよもうそれで」
「勝った」
「ハイハイ、勝った勝った」
「なぜだろう勝った気がしない」
「何も勝ってないからだよ」
「ふふふ。そんな余裕をぶっ扱いていられるのも今のうちだよ」
「あれ。何その不敵な笑み」
「ここまではあくまで前座にすぎないのです」
「前座だったんだ」
「そう。全てはこの後に出す引っかけ問題のための布石…!」
「へー。すごいねー(棒)」
「くっくっくっ、れーじくんの悶え悔しがる姿が目に浮かぶようだよ」
「わー。大変だー(棒)」
「いくよ、れーじくん。『お祭り』の『ぎおん』はどんな音!?
「祇園祭だね。『こんちきちん』」
「ちくしょーーーー! やられたーーーー!!」
「問題出す前に引っかけとか言っちゃったら、さすがに引っかからないよ…」
「『ぼぅおーん』」
「あ、ふしぎちゃんが爆発した」