ショートコント:ふしぎちゃんとお絵かき
(2007/05/08作)


「へぇー、ふしぎちゃんにこんな才能があったんだ」
「えへへ。大したことないってば」
「いやいや、上手いよこの絵。プロ並みじゃないかな」
「そんなに褒められると天狗になっちゃうよ。首だけで飛び回ってニューヨークを破壊するよ」
「そっちか。よりによって暴れん坊天狗か」
「お絵かきは昔から好きだったんだ。暇があればちまちま描いてたよ」
「へぇ、そうなんだ」
「Pの30号に」
「ものすごく本格的なキャンバスだよね、それ。ちまちまってレベルじゃないよね」
「色鉛筆で窓から見た風景とか描いてたなぁ」
「ああ、なんかそれかっこいい」
「雲ひとつない真っ青な空に映える銀色の円盤が綺麗でした」
「さりげなくすごいもの見てるね。あ、そうだ。じゃあさ、僕描いてよ」
「ん?」
「僕の顔」
「うん、いいよ」
「やった」
「じゃさ、せっかくだかられーじくんもあたしの顔描いて」
「えっ」
「お互い描きっこしよ?」
「や…無理だよ。僕、絵は苦手だから」
「別にいいよ」
「いや、でも…文句言わない? 知らないよ、どんな絵になっても」
「うん、言わない! 上手じゃなくても、あたしは嬉しいもん」
「まぁ、それならいいけど…」
「わぁい。だいじょうぶ、れーじくんがどんなにド下手でセンスゼロでも描いてくれる気持ちが嬉しいんだよ」
「…いや、そこまで貶さなくてもいいんじゃないかな…」
「爆笑モノの絵を期待してるね!」
「すんなっ!」
「はい、紙とペン」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、よーいスタート!」
「よーし。頑張って可愛く描こう」
「……(かきかき)」
「……(かきかき)」
「…れーじくん」
「…うん?」
「鼻毛出てるよ」
「そんなとこだけピンポイントに見ないでくれるかな」
「……」
「……」
「…れーじくん」
「…うん?」
「ちょっとこっち目線ください」
「コスプレの人にポーズ注文するような言い方はやめて欲しいな」
「……」
「……」
「…れーじくん」
「…うん?」
「なんでもない」
「そう」
「……」
「……」
「…れーじくん」
「…うん?」
「ちょっと耳毛も出してくれない?」
「無理」
「……」
「……」
「…れーじくん」
「…うん?」
「ちょっと線がずれたから、顔の方を絵に合わせてもらえるかな」
「無理」
「……」
「……」
「…れーじくん」
「…うん?」
「ヌゴメッサァーって言って」
「意味が解らないよ」
「……」
「……」
「…れーじくん」
「…うん?」
「次のネタが思いつかない」
「考えなくていいから。絵に集中して」
「わかった」
「……」
「……」
「うーん、こんなもんかな」
「あ、できたの? れーじくん」
「うん」
「わーい。見せて見せてー」
「…笑わない?」
「うん、笑わない! 絶対笑わない! 笑うものか!」
「えっと…はい」



「あははは! あははははははは! あははははははははははははははははは」
「そこまで豪快に笑われると怒る気も失せるわ」
「ごめんごめん。冗談だよ。可愛い可愛い」
「本当に?」
「うん、可愛いよ。腕前が」
「絶対馬鹿にしてるよね。その発言」
「嘘だよ。すっごく嬉しい。れーじくんの心がこもってる気がする」
「まぁ…うん、そうだね。それは胸張って言えると思う」
「うん! ありがとう、れーじくん。大好きだよっ」
「どういたしまして、ふしぎちゃん。僕も大好きだよ」
「えへへー」
「で、ふしぎちゃんの方はできたの?」
「あ、うん、もうちょっと」
「ふふっ、楽しみだなぁ。ふしぎちゃん、絵が上手だもんね」
「よし、できた!」
「お、見せて見せてー」
「うん! じゃーん」



「……」
「ピカソにインスパイアされてみました」
「なんでそこでそっち方面の芸術へ走るかな」