ショートコント:ふしぎちゃんと謎の数字
(2022/10/24作)

「れーじくん」
「んー? どうしたのふしぎちゃん」
「実はあたし、昨日あたりから不思議な現象に苛まれているんだよね」
「ふしぎちゃんが不思議に思うってことは、きっと普通のことなんだろうなぁ」
「メタ読みしないで」
「はいはい。で、どんな現象?」
「人の頭の上に数字が見えるんだよ」
ガチの不思議現象だね。漫画で見たことある」
「れーじくんには見えない?」
「見えないよ」
「……れーじくん、この指何本に見える?」
視力とかの問題じゃなくて。普通そんな数字とか見えないからね」
「やっぱりそうなんだ。なんだろうこれ。HPかな」
「ゲームじゃないんだから」
「誰かを倒したら、その人の数字が加算されるのかな」
「動画サイトでよく見る広告のゲームじゃないんだから」
「突然ゾンビと戦い始めるのかな」
「その広告もよく見るけど、もう数字関係ないね」
「パズルを解いたら良い武器がもらえるんだよ」

「それで? どんな数字が見えてるの?」
「うーんと、まずあたしの頭の上には「87」って出てるね」
「ふしぎちゃんは「87」なんだね」
「うん。うちのお父さんがそれに近くて「81」だった」
「うーん、なんだろう。数の大きさ的には寿命っぽいけど…」
「あとお母さんが「5」だった」
「違うなー。寿命ではないなー」
「わからないよ? 実はお母さん、ああ見えて5歳なのかも知れない」
「ふしぎちゃんと年齢が逆転しちゃってる時点で違うでしょ」
「お母さんが実はあたしの実の母親じゃなかったとしたらワンチャン…!」
「どっちにしてもお父さんが酷い小児性愛者になってしまうからやめてあげて」
「5歳の、後妻……」
「……」
「……ごめんなさい」
「ちなみに僕の数字も見えてる?」
「うん、ばっちし。丸見え」
「表現が何か嫌だ。僕の数字はいくつ?」
「8128」
えっ、完全数じゃん。やばい、テンション上がる
「えっ何」
「完全数。自分自身が自分自身を除く正の約数の和に等しくなる自然数のことだよ」
「ごめん何言ってるか分からない」
「例えば「6」の約数って1、2、3、6の4つでしょ」
「約数って何だっけ」
「そこからか。えーと、6÷ホニャララで余りが出ない数のことだよ」
「おお。なるほど」
「その約数のうち、6自身除いた1、2、3を全部足すと6。つまり自分自身になるでしょ」
「うん。なるね」
「それが完全数。他にも28、496なんかがそうだね。分かった?」
「分かった。分かったけど、れーじくんがテンション上がってる理由が分からない
「それはまぁ…多分理系特有の感覚だから理解しなくてもいいよ」
「そうなんだ」
「まさかふしぎちゃんにドン引きされる日が来るとは思わなかった」

「でもなんだろうねぇ、この数字」
「うーん。もっとサンプルが欲しいな。他の人はどんな数字なの?」
「あそこにいる男の人は「117」だね」
「正確な時間が分かりそうな数字だね」
「あっちの人は「177」だよ」
「そっちは明日の天気が分かりそうな数字だね」
「紛らわしいね」
「「117」は時報の音をイメージすると覚えやすいよ」
「117。ピッピッポーン。あっ。本当だ。すごい」
「うーん。年齢ではないなら、何かのカウント数とか…」
「あ、あの女の人「8100001071045」だって。大きい数字だね」
ないな。兆単位のカウントなんて、微生物の数とか細胞の数とかぐらいしかないしな」
「あのおじいちゃんは「26.5」らしいよ」
小数!? 小数あるの!?」
「うん。あの眼鏡かけた人は「0.416」で、6の上になんか点がついてる」
「えっ循環小数もあるの!? それ「0.41666666…」って意味だよ!」
「へーそうなんだ」
「こりゃ何かのカウント数という線は完全に消えたな…」
「あっちの外国人さんは「√66」って出てる」
無理数来た! もしやと思ったけどやっぱりいた!」
「あそこの太った人は「π」って書いてある」
「円周率ー! 無理数の中でも特に有名なやつー!」
「あれっ。あの人は数字じゃないね」
「えっ、数字ですらなくなったの!? どの人?」
「あそこのベンチに寝てる人。「i」って書いてある」
虚数ー!! それ虚数ー!! 二乗したら「-1」になるやつー!!」
「おお。そういうことか。なるほどね」
「なんだこれ…全く法則性が掴めないんだけど…」
「あれれれ。漢字の人がいる」
「えっ。まじで」
「ええっと、「一不可説不可説転」…?」
それ無量大数よりずっと大きいやつー!!
「そうなの?」
「確か 10 の 37 澗乗だったかな。仏典に載ってる中で最大の数だよ」
「へぇー。そんなのがあるんだね」
「この調子だと、グーゴルプレックスとかグラハム数とかもいそうだな」
「じゃあ、あのおじさんもすごく大きい数なのかな」
「どんなの?」
「#DIV/0!」
「それ何か不正な計算してエラー起こしてるね。Excelかよ
「あの人のは? 「0x3ADE68B1」」
「あぁー。16進数だねー。そう来たかー」
「うわ。あの人、すごく長い」
「え。どんなの」
「たかし君は500円玉を持って買い物に出かけました。
  150円のりんご1つとと、120円のみかんを2つ買いました。
  お釣りはいくらでしょう?」
「もはや文章問題になってるじゃん。素直に110って出そうよ」
「あの人は…かぎかっこと「1.852」?かな?」
「かぎかっこ?」
「うん。横一本線の一番右が下に曲がった形してる」
「それきっと「¬1.852」だね。ノットサイン、否定の記号だよ」
「否定?」
「うん。1.852以外の全ての数字って意味」
「へぇー。なるほど。あ、あっちの人は「約10000」って書いてある」
「概数もあるのか。一つの数字ってわけでもないんだな… うーん、分からない」

「…あれ?」
「どうしたの、ふしぎちゃん」
「あ。あー。あーっ!」
「え、何、本当にどうしたの。今度は何が見えたの」
「あそこ見てれーじくん。あのビルのオーロラビジョン」
「オーロラビジョン? えっと…今週の占い…?」
「私のラッキーナンバー、「87」だよ!」
「87……えっ」
「そう、私の頭にある数字と一緒! これラッキーナンバーだったんだよ!」
「えぇ…そりゃ法則性も何もないわ……」
「いやー、すっきりしたね!」
「僕は激しい脱力感に襲われてる」
「えーなんでー」
「頭の上に数字が見えるってだけで非科学的なのに、正体がラッキーナンバーだなんて…」
「でも実際、れーじくんは自分のラッキーナンバー聞いてテンション上がってたじゃない?」
「うっ。確かに」
「ほら。やっぱりれーじくんの「8128」もラッキーナンバーだったんだよ!」
「うーん。いやでも…うん、そうだね。確かに。ふしぎちゃんの言う通りだよ」
「えへへ。でしょでしょー」
「うん。今回はふしぎちゃんが正しい。信じるよ」
「えへへー。もっと褒めてくれたまえ。えっへん。ちょっと待って今「今回は」って言った?」
「言ってない」
「いいや、言ったよ! 絶対言った!」
「言ってない」
「言ったもん! 絶対言ったもん!!」

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二人の会話を聞いていたおじさん(#DIV/0!) 「…私のラッキーナンバーはエラーなのか……」