ショートコント:ふしぎちゃんとナンパ男
(2007/02/22作)


「そこのかーのじょっ。一人?」
「はえ? あたし?」
「そうそう」
「うん、一人っ子だよ」
「いや、そうじゃなくて今一人?」
「うん、今も一人っ子だよ」
「いやいや。今日は一人でお出かけですか、ってこと」
「あーなんだそういうこと。うん、今日は孤高の戦士だよ」
「せ、戦士? …あはは。君、面白いね」
「ありがとう。あなたも面白いよ。耳たぶの形とかが」
「褒められたのか馬鹿にされたのかよくわからないけど、ありがとう」
「どういたまして」
「名前、なんていうの?」
「名前? 耳たぶの?」
「いや、君の」
「あたしの名前はもももっ…」
「ももも?」
「桃本ふしぎだよ。苗字を言う時いつも噛むの」
「確かに言いにくそうだけど、さすがに慣れようよ」
「ももももふしぎ。ももも。もも。もももも。無理だよ」
「諦めた。自分の名前なのに」
「ふしぎちゃんでいいよ。苗字なんて飾りだよ」
「ふしぎちゃん、だね。ふしぎちゃんは今何してるの?」
「あなたとお話してるよ」
「…えーと。お話する前は何してたの?」
「お買い物。近所のコンビニには売ってなかったんだ」
「ああ、そうなんだ。何を買いに来たの?」
「ひんしゅく」
「…は?」
「『ひんしゅく』を買いに来たの」
「『ひんしゅく』…?」
「うん。お友達がね、『こないだひんしゅくを買った』って言ってたの」
「はぁ」
「それで、あたしもその『ひんしゅく』っていう物が欲しくなったの」
「…あのさ、言いにくいんだけど…『ひんしゅく』って、物じゃないよ?」
「え!」
「『顰蹙を買う』って言う言葉があるんだよ」
「そうなの?」
「うん。間違ったことをして皆から嫌がられること、かな」
「道理で、コンビニで『ひんしゅくください』って言ったら変な目で見られたよ」
「しっかり顰蹙購入済みだね」
「失敗しちゃった。でも『失敗は聖子の母』って言うよね」
「いや、言わない言わない」
「あれ? 聖子の娘だっけ?」
「遠くなったよ。SAYAKAは誰も呼んでない」
「うーん。芸能界は難しいよ」
「それより、どっかで一緒にお茶しない?」
「え、野点? 野点するの!? 野点!?」
「い、いや、単純に喫茶店とか」
「なんだ。残念、遠慮するよ」
「野点だったら食いつくんだね… えーと、じゃあカラオケとかどう?」
「いいよ。じゃああたし採点マシーンの役」
「はっ!?」
「てれてれてれてれてれてれ。じゃーん。七億飛んで九千六百二十二万八千五百十三点」
「桁が大きすぎて良い点数なのかどうかわかんないよ。しかも全然飛んでないし」
「…七二四三五五八…」
「えっ、小数!? さっきの『点』は小数点!?」
「ぱっぱらっぱー。あなたの歌った曲はオリコン三十一位です」
「いや、そんな順位教えられても。ていうか歌う方に回ろうよ」
「いいけど、あたしカラオケにはうるさいよ」
「そうなの? ちょっと意外だなぁ…」
「一緒に行ったお友達からは『ジャイアン』という渾名で称えられているよ」
「それは蔑まれてるんだと思うよ。あ、うるさいってそういう意味か」

 (♪まどをあぁけぇぇれぇばぁぁ…、みなとがぁぁみえるぅぅ…)

「あ、メールだ」
着うたが淡谷のり子って。君、何歳よ」
「二十歳ジャストと一歳だよ」
「今のジャストは全く意味が無いよね」
「れーじくんが近くにいるって。ごめんね、あたしもう帰るよ」
「なんだ、彼氏いるのか」
「うん。れーじくんはとっても格好よくて優しいれーじくんなの」
「日本語が変だけど言いたいニュアンスはわかったよ」
「れーじくんにはいっつも『ふしぎちゃん、可愛いね』って」
「言われてるんだ」
「言わせてる」
「強制!?」

「よく出来たお子さんだよ」
「見たことも無い彼氏に同情を禁じえないんですが…」
「頭もいいんだよ。いつも学校で五本の指が入るんだよ」
「どこにだ」
「あ、五本の指に入るんだよ」
「へぇ、すごいんだね。どこの大学?」
「ん? あたし?」
「いや、そのれーじくんって彼氏」
「あははは。れーじくんは大学生じゃないよ」
「え、じゃあまさか高校…」
中学生だよ。あ、れーじくんだ! おーい!」
「えぇぇぇぇ!? ちょっ、待っ」