ショートコント:ふしぎちゃんと間違い探し
(2007/06/27作)


 ふひゅー ふぉー ふぉー

「あれー。おかしいなぁ。音が出ないよ。ドとレとミの音が出ないよ」
「…あのね、ふしぎちゃん。残念ながらリコーダーは縦に咥えるものなんだよ
「あっ、そうか。リコーダーなんて久しぶりすぎてすっかり横笛と勘違いしてたよ」
「形状から見れば大体判ると思うんだけどなぁ…」
「どうでもいいけどなんか臭いね、このリコーダー」
「他人のリコーダーなんて銜えるもんじゃないよ。はい、返して。僕のリコーダー」
「はーい。なんかフローラルが腐ったような匂いだったよ」
「それはいい匂いなのか悪い匂いなのかどっちだ」
「ごちそうさまです」
「意味がわからない」
「それにしてもあたし、ホントに勘違いが多いなぁ」
「そうなんだ。まぁものすごくそんな感じはするけど」
「こないだも、駅の待合室でワインのテイスティングをしてたらね」
「何でそんなとこでそんなことしてんの」
「うーん。それを話せば長くなるよ」
「じゃあいいです」
「近くに座っていた人が、男の人なのか女の人なのか判らなくってさ」
「あー。たまにあるね。中性的な顔立ちしてたりすると」
「それでね、あまりにも気になったもんだから、勇気を出して聞いてみたの。あなたは男ですか女ですかって」
「うん。どうだったの?」
『ワン!』って答えられた」
「人ですらなかったんだ」
「うん。びっくりしたよ」
「僕もびっくりしたよ。どうやったら人と犬を見間違えられるんだ」
「あと、テレビの人が言ってる言葉を聞き違えることもよくあるよね」
「ああ、あるね」
「こないだニュースで『年金記録漏れ問題に対し、社会保険庁は職員に賞与の返納を求める』って聞こえたの」
「タイムリーな話題じゃない。どこを聞き違えたの?」
「画面観たら天気予報が映ってたんだよね」
「一体何をどう聞き違えたんだ」
「あるでしょ、そういうこと。れーじくんも」
「さすがにそんな強烈な事例は持ち合わせてないけど… あ、でも」
「なになに。何かあった? ゴマシオだと思ったら砂糖瓶にアリがたかってただけだった、みたいな」
「気持ち悪い例えやめてよ。いや、『ふるさと』って歌あるでしょ。童謡で」
「うんうん」
「あれの『うさぎ追いし かの山』ってとこ、ずっとうさぎが美味しいんだと思い込んでたね。昔は」
「あー。それはよくあるね。『仰げば尊し 和菓子の恩』とか『重いコンダラ 試練の道を』とか」
「そうそう」
「『あんな娘(こ)といいな デキたらいいな』とか」
「それは普通ないと思うな」
「怖いね、れーじくん。勘違いって」
「…あのさ。前から言いたかったんだけど」
「うん?」
「僕の名前、本当は『れーじ』じゃなくて『玲士(れいし)』なんだよ」
「えっ…」
「……」
「……」
「まぁそういう日もあるよね!」
「日の問題じゃないよ、ふしぎちゃん」