ショートコント:ふしぎちゃんとド忘れ
(2007/09/09作)
「あ、れーじくん。アレ取って」
「アレって?」
「アレはアレだよ。えーと…」
「アレって言われてもわからないよ」
「あー。なんだったっけな。ド忘れしちゃったよ。あれあれ」
「そういうことあるよね。考えれば考えるほどドツボにハマっていくっていうか」
「うん、早速ドツボにハマったよ。ドツボのドとド忘れのドって同じドなのかな」
「いや、ドツボ以前に完全に思考が横道に逸れてるよね」
「ド級戦艦のドはどうなんだろう。わぁ、困った!」
「とりあえず目下の課題である、ふしぎちゃんが取って欲しいものの名前を思い出してもらえるかな」
「わかった。ドについては今後の検討課題としてメモしておくよ」
「そうしてもらえると助かるね」
「うーんうーん、えーとえとえと。なんだったかなー。ほら、アレだよアレ」
「だからアレじゃわからないってば」
「もう! なんでよ! 心の中くらい読んでよ!」
「無茶言わない」
「全くもう、男の子は乙女心を解っていないんだから!」
「乙女心がどういう物を指すのか解らないけど、少なくとも今の発言が八つ当たりだってことくらいは解る」
「そこまで解ってるんだったら、あたしが思ってるものの名前も思い出してよ」
「…仕方ないなぁ。じゃあ名前は置いといて、どんな物なのか説明して。推理するから」
「うん、解った! えっとねー、まず色だけどねー、ベースは白」
「白いんだ」
「うん。でも赤とか金色の部分もあるの」
「白地に赤とか金色…ずいぶん派手だね」
「そうなの。派手なの。でも昔は黒かったの」
「え? 色が変わるの?」
「うん。変わったの。黒と白だったの。今は赤と金色と白なの」
「うーん…いきなり難解だ。他に特徴は?」
「素早い」
「えっ、動くの!?」
「動くよ。すっごく動くよ」
「えっと…生き物なのかな。鳴き声は?」
「鳴かないよ」
「鳴かないんだ」
「その代わり消えたり現れたりするよ」
「ええー」
「何その目! 本当だってば!」
「いや、だって…消えるって何だよ…」
「だって消えるんだもん! しょうがないじゃない!」
「えーと…あ、じゃあ大きさは?」
「小さいよ」
「小さいんだ」
「うん」
「多分ね」
「多分?」
「実物見たことはないから」
「ええー!」
「何?」
「いや、見たことないものを取ってくれって…」
「テレビで観たんだよ」
「テレビで?」
「うん。最初に観たのはいつだったかな…十数年前?」
「ええー。かなりの年代物じゃない」
「んー? まぁ年代ものといえば言えなくもない、こともない、こともない?」
「どっちだよ」
「最近でもたまに見かけるよ」
「ますます解らなくなってきた… 小さいって、具体的にどれくらいの大きさ?」
「ん? タモリくらい?」
「でかっ!」
「え、タモリ小柄じゃん」
「いやいやいや。そういう人類間の相対的基準で小さいって言われても参考にならないんで」
「そう?」
「人間と同じくらいの大きさって言ったら相当でかいじゃないか」
「えー。そうかなぁ」
「人間くらいの大きさで、白と赤と金色で、動く…?」
「そうだよ。消えたり現れたりするよ」
「いや、ごめん、混乱するだけだからそのヒントはちょっと横に置いておいて」
「うん、わかった」
「むむ…なんだろう。しかも昔は黒と白で、十数年前からあるもので…」
「あ、そういえばこないだ見た時は火を出してたよ」
「えええー!?」
「すごいよ。こう手に持ったトランプをばばばって…」
「…ちょっと待った」
「はい?」
「手に持ったトランプ?」
「うん。トランプ……あっ」
「いや、うん、僕にも答えは解ったよ」
「そうだよ。トランプマンだよ。ああ、思い出せた。スッとした」
「いやいやいや。僕はちっともスッとしてないんだけど」
「え? なんで? あ、そっか。ごめん、さっき鳴かないって言ったけどものまね王座決定戦では喋ってたね」
「そういう問題じゃなくて」
「うん? あ、消えたり現れたりはトランプのことだよ」
「そこでもない」
「じゃあ、どこだろう」
「…そもそも人間のこととは思わなかったからさ」
「あれ。うーん。そっか。なんか話が噛み合ってないなとは思ってたんだ」
「だって、何かを取って欲しかったんじゃないの? トランプマン取って、ってどういう状況だよ」
「えっと、トランプマン柄のボールペン、引き出しにあるから取って」
「トランプマン思い出さなくても通じるじゃん!」